「怒って物に当たると逆効果」という論文を探してみた
私が所属している日本アンガーマネジメント協会の公式サイトには、「ブログ」のページがあり、毎週火曜日、木曜日に更新されています。
このブログは、2015年にアンガーマネジメントファシリテーターのチームによる定期更新がスタートし、私もそのときのチームメンバーだったのですが、その前は、協会本部による記事が更新されていました。
このブログページの人気記事のひとつに「怒って物に当たると逆効果」というのがあります。
この記事では、アメリカで発表された「怒って物に当たると逆効果」という論文が紹介されているのですが、引用元のサイトでは過去記事だからか、それらしい記事が見つかりません。
しかし、興味があるテーマなので、この論文を探してみました。
なかなか探し出せなかったのですが、ついにこれだろうというものを発見しました。
それは、オハイオ州立大学コミュニケーション学部のブラッド・J・ブッシュマン(Brad J. Bushman)教授の論文です。
この方は、人間の攻撃性と暴力の原因や解決策を研究し、200を超える論文を書かれていますが、そのタイトルを見ると、興味深いものが多いです。
これまで常識とされてきたことを覆す研究結果で「神話破壊者」とも呼ばれているようです。
これらの論文を読み込めば、戦争も含めたさまざまな紛争や、ハラスメントを含めた暴力を減らすヒントが見つかるかもしれません。
怒りの発散は炎を燃やすのか、消すのか?
さて、この「怒って物に当たると逆効果」の論文は、2002年のもので、タイトルは「怒りの発散は炎を燃やすのか、消すのか? カタルシス、反芻、気晴らし、怒りと攻撃的な対応(Does Venting Anger Feed or Extinguish the Flame? Catharsis, Rumination, Distraction, Anger, and Aggressive Responding)」というものです。
研究の概要は、下記です。
- 600人の大学生(男性300人、女性300人)が参加し、皆にエッセイを書いてもらいます。
- そのエッセイに対し、他の参加者の感想をフィードバックすると伝えますが、本当は誰もフィードバックしておらず、全員に腹立たしくなるような批判的な内容を返します。
- その怒りに対して、参加者を次の3グループに分け、指示に従った行動をとってもらった後、攻撃性が減ったかなど、効果を調べます。
- エッセイを批判した人の写真がモニターに映し出され、パンチングボールをボクシングのグローブで叩き、怒りをぶつけるように指示(写真は偽物)
- アスリートが運動している写真がモニターに映し出され、健康を考えてパンチングボールを叩くように指示
- 座って静かにするように指示
その結果、1>2>3 の順に攻撃的でしたが、残念ながら、統計的に有意ではありませんでした。
「統計的に有意」というのは、誤差とは考えにくい、明確な差があるレベルです。ですので、この実験では、明確な差はなかったということです。
しかしながら、逆に「怒りを発散することで、怒りが解消され、攻撃性が減少する」という説(カタルシス理論)も実証されなかったと言えます。
この論文には、3の「静かにしておく」の次の段階として、仔犬をなでる、面白いテレビ番組を見る、クロスワードパズルをやるなどを試すと、より効果が出るかもしれないと書かれています。
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アンガーマネジメントでは、怒って物に当たると、怒りの感情が増幅され、行動が激化することが少なくないため、物に当たることはせず、理性を取り戻して冷静になることを勧めています。
また、怒りを減らそうとするよりも、喜び、楽しみを増やすことを勧めています。それからすると、仔犬をなでる、面白いテレビ番組を見る、クロスワードパズルをやるほうが、怒りを解消し、攻撃性を減少させる効果につながるはずです。