伊勢崎賢治氏の「アフガン戦争を終わらせる」ための本

アフガン戦争において、窮地に陥っているアメリカ。このままでは、最悪の結果が待っている。では、どうしたらよいか。
「その話をしようと思ったができなかった。本を読んでください」と、伊勢崎氏が言うので、本を買いました。
「アフガン戦争を憲法9条と非武装自衛隊で終わらせる」(かもがわ出版)
このタイトルは、伊勢崎氏いわく「出版社が勝手につけた」ものだそうです。

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この本の第一章は「アフガニスタンの現状とオバマ戦略」
講演で話された、米軍増派と、それがパキスタン頼みであること、カルザイ政権が国民に信頼を得られていないことなどが書かれています。

第二章は「和解とは何か、日本にそれができるか」
和解は、戦闘に加担していない第三者がやるしかないこと。サウジアラビアは、和解の仲介役として期待が高いが、オサマ・ビン・ラディンに共感する人々が多く、リスクを負い過ぎている。日本の「美しき誤解」は給油活動を経ても、まだ生きていることなどが書かれています。

そして、そもそも日本の担当した「武装解除事業が、現在のテロ戦の戦況の悪化に、直接的に関与したということを肝に銘じて、主体的なアフガン外交を考えるべきである」と締めくくられています。

第三章は「『支えあう安全保障』に向けて」
ここに、伊勢崎氏が講演で語った「では、どうしたらよいか」が書かれています。
「僕が関係各国に提案してきたのは、次のような構想である。」
「国境地域を対象にしたプロジェクト」

それは、アフガニスタンとパキスタンの国境を跨いで、小さな平和ゾーン(抗争停止ゾーン)である「支えあう安全保障ゾーン(Shared Security Zone:SSゾーン)」をつくるというものです。

ここSSゾーンに優秀な警察部隊を選抜しておく。「日本で言う『交番』のように、優良な警察と地元コミュニティとの信頼醸成をつくりあげるのだ。」
そして、タリバンが嫌がりそうな、壊しに来るようなプロジェクト、女子教育の学校のようなものをつくります。「コミュニティに、『自分たちの財産だから自分たちで守る』という意識を、『逆療法的』に刺激するのだ。」
「更に、このSSゾーンを『経済特区』にもする。」
SSゾーンで実績を作り、対象地域をひろげ、やがて国境地域の全体に及ぼしていくという構想です。

「なぜこんな回りくどいやり方が必要なのか。」
国境地域は、最貧困地域で、教育はアメリカへの憎悪を植え付ける「洗脳」だけ。治安が悪く国際援助も入らないので、ますます貧しくなり、テロリスト予備軍が増える。この悪循環を断ち切るための、SSゾーンの設置だといいます。

そして、SSゾーンが成功するには、中立国による監視が必要。中道なイスラム国家、マレーシアやインドネシア、そして、「美しき誤解」による日本の自衛隊が挙げられています。

また、「地元タリバンとの信頼醸成は、やり方によっては活路がありそうだ」とあります。

          ◆ ◆ ◆

第四章は「国境プロジェクトをひっさげて」
SSゾーンの構想が生まれてきた背景と、各国の反応が書かれています。

そして、その反応をふまえて、昨年(2009年)11月に東京で開催した「11.23東京会議」のことが、
第五章「『11・23東京会議』とその合意の意味」に書かれています。

この会議の参加者は、アフガニスタン、パキスタン、サウジアラビア、イラン、NATOの実務者たち。メディアをシャットアウトした非公式会議で、「現在考えうる最大限の本音トークをすることができた」とあります。

会議の議事録は公表せず、一致した意見で公表できる項目のみで作成した「コミュニケ」(共同声明)が、この本の巻末に掲載されています。

それは、「アフガニスタン主導のプロセス」「日本の役割」「地域間協力」「イスラム諸国の役割」「包括的アプローチ」「復興支援への取組み」「国連の役割」「NATO/ISAFの役割」の8つの提言です。

このなかで「日本の役割」に関しては、次のことが書いてあります。
「アフガニスタン及びその近隣国において日本が高い評価を得ているという現実を踏まえ、日本が他の主要ドナー国とともに、アフガニスタン政府が主導する平和と和解に関するプログラムを支援する中心的役割を果たすことを強く期待する。
我々は、日本政府が今後もアフガニスタンの復興に貢献できるよう、支援の透明性、アカウンタビリティー(説明責任)、そして実のある結果を確保するため、支援の効果的な実施を可能にするような仕組みを導入する提案を歓迎する。」

このなかで「ドナー国」とは、資金提供国を言います。

第六章は「なぜ非武装自衛隊を派遣するのか」
「『11・23東京会議』においては、当然、SSゾーン構想も扱われた。議論された骨子は以下の通りである。」すなわち、
「地元コミュニティの強化が先決。(略)優良な警察力との信頼醸成を図ること」
「治安の権限を(略)優秀なアフガン国軍・警察へ完全に委譲すること」
「国連主導の非武装軍事監視団を創設すること」
「『経済特区』的な国際経済支援を実施すること」。

このうち「国連主導」は、アフガニスタンにおいて、国連は「中立性に欠けた、頼りない組織」と見られているため、「日本主導で、国連、つまり国連安保理を動かす」ことを伊勢崎氏は考えています。
「つまり、軍事監視団には日本の自衛隊を非武装で参加させるということだ」「わが自衛隊を『信頼醸成』の要として、非武装で、このSSゾーンに派遣する。これが、SSゾーン構想の重要な中身である」ということです。

そして、憲法前文を挙げ、「これを読めば、一国平和主義ではいけないと憲法は言っているのだとわかる。世界中から紛争をなくすため、日本はイニシアチブを発揮すべきだというのが、前文の立場である」と書かれています。
さらに、「すでに自衛隊には経験がある」と、ネパールに派遣されている非武装の自衛隊員について説明しています。

          ◆ ◆ ◆

すなわち、アフガン戦争を終わらせるためには、日本が主体的に関与する。具体的には、SSゾーンをつくり、非武装自衛隊を派遣する、というのが、伊勢崎氏の「出口戦略」です。

日本は、アフガニスタンから「美しき誤解」をされていますが、日本の多くの人たちにとって、アフガニスタンはニュースに出てくるだけの国、よくわからない遠い国だと思います。
アフガニスタンに限らず、国際社会において、いろいろな国・地域は、じつは全部つながっている。関係しているのですが、リアルな姿がなかなか見えない、見せないようになっている部分もたくさんあります。

国際情勢に関して、以前、ある人が言った言葉を思い出しました。
「同じ船に乗っていて、人の座っている床に穴が開き水が入ってきても無関心。つながっていることを分かっていない。むしろ、人の座っている床に穴を開けるという愚かしいことをするやつもいる」
すなわち、他人ごとではないことに気づきにくいのが、国際的な動きかもしれません。

なぜ当事者としてアフガニスタンを考えなければいけないのか。それは、同じ船に乗っているからに違いありません。

なお、伊勢崎氏の著書は「国際貢献のウソ」(ちくまプリマ―新書)も参考になります。
本の裏表紙には、次のようにあります。
「国際NGO、国連、日本政府を30年渡り歩いて痛感した、『国際貢献』の美名のもとのウソやデタラメとは。武装解除のプロが、国際情勢のリアルを縦横無尽に語り、日本だからこそできる国際協力のカタチを考える。」

「長崎大学 寺島実郎リレー講座」のブログ