長崎大学 寺島実郎リレー講座 第2回 第1部 中国経済の行方

長崎大学主催の寺島実郎責任監修リレー講座 第2回に行きました。まず、第1部の内容です。

セミナーデータ

タイトル:寺島実郎責任監修リレー講座「世界の構造転換と日本の進路」
第2回 第1部「上海万博後の中国経済の行方」
講師:沈 才彬氏(多摩大学教授)
日時:2010年10月14日 (木) 14:30~15:45
場所:長崎大学
主催:長崎大学 共催:長崎新聞社

沈 才彬氏の話

私は1989年に日本に永住する形で来たが、長崎は私にとって特別な意味があるところだ。短期訪問として一番最初に日本に来たのは、1980年、長崎空港だった。また、長崎は、鎖国時代、日本の窓口として、とくにオランダ、中国と長い交流を続けてきた。公私ともに特別な思いがある。

今回のテーマは、「上海万博後の中国経済」だが、私も8月末に万博を見学した。中国出張の結果を踏まえて、中国の最新情報を皆さんにお伝えする。

まず私の問題意識を皆さんと共有したい。
1つ目は、最近、オバマ大統領が中国に対してとった3つの行動。この3つの行動の背景に何があったかということ。

2つ目は、旧ソ連、東欧の社会主義諸国が崩壊するなか、同じ社会主義の国、中国はなぜ崩壊せず、急ピッチで台頭を遂げているのか。

3つ目は、今回のアメリカ発の金融危機から中国は一番先に脱却したが、その理由は何か。

4つ目は、上海万博の効果もあり、今年は中国の経済成長は続くだろうが、今後はどうか。引き続き高度成長は続くか、あるいは挫折するか。もし、挫折するならどういうことがきっかけになるか。どういうタイミングが要注意なのかということ。

5つ目は、今、日本企業は戦略転換が求められているが、どういう転換が必要なのか。中国経済のダイナミズムをどう取り込むべきか。

最後に、今、日中関係はぎくしゃくしているが、これからどういう外交戦略をとるべきか。

これらの問題について、個人的な見方を述べさせていただきたい。

          ◆ ◆ ◆

1つ目、オバマ政権は、最近、中国に対してかつてない3つの行動をとった。
まず、これから2013年までに、アメリカから中国に10万人規模の留学生を派遣すると発表した。これまでは、中国からアメリカに留学する流れだった。
次に、今年4月、アメリカの局長級の政府高官20人を中国に派遣し、精華大学で1週間の研修を受けさせた。これまでは、中国が政府高官をアメリカに派遣し、ハーバード大学で研修を受けるのが流れだった。
そして、今年5月、北京で開催された第二回米中戦略・経済対話会議に、アメリカの閣僚級8人を含む200人の政府高官を派遣した。
これらの背景にはいったい何があるのか。

中国の台頭というパワーシフトがある。
アメリカにとって、中国はもう無視できない存在。21世紀の最大の課題のひとつは、中国と付き合うことだ。
アメリカの有識者を対象とする世論調査では、アメリカにとってアジアでもっとも重要なパートナーは、中国が56%、日本は36%だった。

いかに中国は急ピッチに台頭しているか。
マクロ的には、中国のGDP規模。
1990年に中国のGDPは日本の9分の1、アメリカの15分の1しかなかったが、2009年には日本と肩を並べるようになり、アメリカの3分の1強になった。
ミクロ的には、新車の販売台数。1990年に、中国は55万台、日本777万台、アメリカ1390万台だったのが、2009年には中国1364万台で、アメリカの1043万台より多い。日本は461万台。
中国は消費大国になった。20年前、誰も想像がつかず、予測できなかったことが、今実際中国に起きている。まさに中国の衝撃だ。

上海・東方明珠塔のパネルは、中国の急成長ぶりを表わしている

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今、中国と日本、中国とアメリカ、中国とヨーロッパの間にさまざまな問題、摩擦が起きている。理由はさまざまだが、私から見れば、最大の理由は、お互いに心の準備ができていないこと。
日米欧はもちろんのこと、中国自体も、こんなに急ピッチに成長することはまったく予測できなかった。これから中国とどう向き合うかが、全世界の重要な課題となっている。

2つ目の問題。なぜ、中国は、社会主義の国で唯一、急ピッチで台頭しているのか。
1990年代に、鄧小平さんは「資本主義的な手法を導入して、硬直化した社会主義制度を是正した」と答えている。当時の常識「資本主義=市場経済」「社会主義=計画経済」を覆し、「社会主義=市場経済」を導入した。
1992年は中国経済の転換点。鄧小平さんの決断、発想、リーダーシップがなかったら、今の中国はない。リーダーシップは普段は要らない。組織や国が揺れているときにこそリーダーシップが必要。
社会主義の危機のときには、資本主義の手法が有効だと、中国の歴史によって裏付けられた。

一方で、世界的な危機が起きた。アメリカ発の金融危機。マネーゲームに奔走した金融資本主義の危機。
オバマ大統領やヨーロッパの対応を見れば、おもな政策は2つ。大規模な公共投資の実施と、銀行への公的資金の注入あるいは国有化。いずれも、社会主義的な手法を特徴とする対応策だ。資本主義的な危機には、逆に社会主義的な手法が有効だということが、今回、裏付けられた。

3つ目の問題。アメリカ発の金融危機から、中国は一番先に脱却した。その理由は何か。
理由は次の3つ。
まず、中国は「国内政変には弱いが、外部危機には強い」という特質的な構造をもつこと。
これまで、中国経済の挫折は、例外なく中国の政変の年に起きている。理由は、中国は共産党一党支配の国なので、トップや主要幹部が失脚すれば、中央から地方まで大規模な幹部異動が行なわれ、政治が混乱し、経済が挫折する。

しかし、外部危機には強い。理由は、やはり、共産党一党支配の国ということ。決断、行動が速い。リーマンショックのときも、わずか1日、翌日に、これまでの金融引き締め政策から金利緩和政策へ、180度の政策変更を断行した。

金融危機から脱却した2つ目の理由は、中国は広いため、外注依存度が高い「海洋国家」の部分と、内需依存度が高い「大陸国家」の部分をもつこと。外部危機では「大陸国家」の部分が活かされた。

3つ目の理由は、大規模な景気対策、57兆円規模の対策の効果。

その結果、昨年の中国の経済成長率は9.1%となった。

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そこで、今年はどうなるのか。
上海万博の入場者数は、最終的には7000万人を突破する見通し。1970年に開催の大阪万博の史上最多、6400万人の記録を更新する形となる。
とくに、旅行会社、ホテル、小売業、交通、航空会社が恩恵を受ける。今年の経済成長率は、10%台になる見通し。引き続き、高度成長が続く。

上海万博のテーマは「より良い都市、より良い生活」

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不安材料は2つ。
国際的には、アメリカ経済とヨーロッパ経済の二番底の恐れ。
国内的には、住宅バブル崩壊の懸念と、人民元切り上げ。

今後の成長において、要注目の動きは、新車市場と住宅市場。
新車市場は、今年、1700万台を突破することがほぼ確実。経済への波及効果は絶大。部品、鉄鋼、プラスチックなどの原料、道路、駐車場、ローンなど、さまざまな分野に波及する。
住宅市場は、バブル崩壊の懸念があり、避けるために政府が、今、引き締め策を行なっている。けれども、中長期的に見れば拡大する、価格が上昇する、盛況が続くと思う。
理由は、毎年、農村部から都市部への人口移動が2000万人あり、そのニーズが絶大ということ。そして、若者の結婚の前提条件は持ち家があるということ。

個人消費の最大の分野、住宅と車が成長するかぎり、中国の経済成長は止まらない。一時的な挫折はあっても、2020年まで経済成長は続くというのが、個人的な判断。

一時的な挫折の不安材料は、上海万博、オリンピックという2大ビックイベントが終わり、国民の不平不満が爆発するという恐れ。背景は「格差問題」と「役人の腐敗問題」。格差は、地域格差、所得格差、貧富の差の問題。役人の腐敗問題は、収賄金額が、一人当たり1億3000万円と大きい。

挫折が一時的な理由は、工業化は未完成な状態だということ。また、都市化も未完成な状態。そして、富裕層・中間層はまだ急増する。
だから、2020年までは、年平均7%の成長がキープされるのではないかと、私は思っている。

最後に、これからの日本の外交戦略。
私の表現では「親米睦中」。これを基軸にすべきだ。
今、日本の直面している経済情勢を見れば、3つの米中逆転が起きている。1つ目は、新車販売。2つ目は、輸出先。3つ目は、観光客。大きく中国経済に依存しているというのが、日本の現実。中国の巨大市場抜きでは、日本の産業発展も経済成長も計れない状態になっている。
アメリカと親しく付き合うだけでなく、中国も、アジアも大切。「親米睦中」の、バランスのとれた戦略が一番望ましい。
(以上)

          ◆ ◆ ◆

先月、私は、本当に久しぶりに上海に行きました。上海万博も見てきました。そして、改めて、中国のパワーを感じました。

私が初めて中国を訪れたのは、沈教授が初めて日本に来たのと同じ1980年。長崎空港から上海へ、中学のオーケストラ部の演奏旅行に、OGとして付いて行きました。

そのとき、迎えてくれたのは、赤いスカーフを巻いた、日本語も英語もわかる、まったくものおじしない、賢い小中学生たち。
そういう子どもたちは、中国のごくごく一部であるとはいえ、すごいなあと感じたのと、才能ある子どもの能力をどんどん伸ばす国のあり方に羨ましさを感じたのを覚えています。

日本の「一人の百歩より、百人の一歩」の考え方は素晴らしいですが、当時、それはときとして「出る杭は打たれる」ことになり、とくに女の子が「ほどほど」を超えて、思いきり力を発揮し、可能性を伸ばそうとすると、逆風が吹いてきました。

そのときの中国には社会主義の硬直化した部分もありましたが、「ホット」で「ハード」な部分を、もしよい方向に向かわせることができたら、いつか「ウォーム」で「マイルド」な日本を超えてしまうのではないかと、私はそう感じたのでした。

その後、日本には「ほどほど」さが増えていったように思います。そして、今は「やると言ったらやる」のではなく、「やれるかどうか不安なので、やらない」というトーンになっているように感じます。
だから、上海に行くと、マナーの悪さ、強引さに腹も立ちますが、「ほどほど」ではないそのパワーに元気にもなります。
中国も日本もお互いに足りない部分がある。だから、補完し合えばいいと思います。

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