褒めてくれるカーナビで煽り運転が減る?

私が大学生で免許を取った頃、カーナビはありましたが、カーナビにGPSはまだ採用されていませんでした。
1990年にカーナビにGPSが採用されましたが、位置情報が正確ではなく、カーナビはそこまでポピュラーではありませんでした。当時、スマートフォンも登場しておらず、ポケベルの時代でした。
私は、自動車用の方位磁石(カーコンパス)を使い、「北に行けば着く」という感じで運転していました。

その後、カーナビにさまざまな機能が搭載され、今はドライバーの必需品となっています。

「この先、カーブです」
「この先、しばらく道なりです」
「この先、スピードにご注意ください」
などと、カーナビは、音声で案内してくれますが、いちいちうるさいという人もいます。

カーナビは、事実を伝え、注意を促す言い方をしますが、何も言わない場合と、運転時のイライラは変わるのか?
また、運転を褒めてくれたり、ポジティブな言い方をしたりすると、ドライバーのイライラが減って、煽り運転が減るのか?

そういう研究がなされ、論文になっています。

運転でイラッとする場合を再現した実験

中国の清華大学産業工学部、深せん大学研究所他のメンバーの2020年の次の論文です。

Effects of speech-based intervention with positive comments on reduction of driver’s anger state and perceived workload, and improvement of driving performance(訳:ポジティブなコメントを用いたスピーチによる介入が、ドライバーの怒りの状態と知覚された仕事量の軽減、および運転パフォーマンスの向上に及ぼす影響)

ドライビングシミュレーターを使って、運転していてイライラするような場面を再現し、イラッとさせた後、イライラが減る度合いを、3つのグループ(ネガティブな言い方、ポジティブな言い方、何も言わない)で比較しています。

たとえば、下記のような場面です。

車が急に割り込んできて、道を塞ぐ
ネガティブな言い方「ドライバーが突然割り込んできて、他人の安全を無視しています」
ポジティブな言い方「急に割り込んできた車を追わないなんて、本当に紳士的で良いドライバーですね」

走る歩行者が現われる
ネガティブな言い方「歩行者はいつでも突然現われる可能性があるので、注意が必要です」
ポジティブな言い方「走る歩行者への対応はタイムリーでした。次回はもっと運転を向上させることができるでしょう」

実験では、そのような場面でイラッとしたか、介入(ネガティブな言い方、ポジティブな言い方)で、怒りは軽減したか、7段階のリッカート尺度を用い、自己申告してもらっています。

結果は、ネガティブな言い方、ポジティブな言い方、いずれも、何も言わない場合よりも、ドライバーの怒りの軽減に役に立ち、さらに、ポジティブな言い方がネガティブな言い方よりも効果的でした。

今後は、実際の道路での実験や、よりシステマティックな感情検出法(たとえば、顔の表情や生理的検出)を追加する、性別、年齢、運転時の怒りの特徴も考慮したほうがよいと、論文はまとめてあります。

近未来のアンガーマネジメント

カーナビというよりも、車載エージェント(コンピュータシステム)は、今後、さらに進化していくでしょう。

ドライバーの感情検出(顔の表情、その他)と連動して、国民性も踏まえた効果的な言い方をする、アンガーマネジメントを助け、煽り運転を防止するAIシステムが、近未来、登場するかもしれません。

さらに、自動運転車になれば、そのシステムは、自動車以外、オフィスや家庭のシステムや、街中の防犯カメラなどに組み込まれる可能性もあります。そのメリット、デメリットは別として。