「白色テロ」を知っていますか?:流麻溝十五号
白色テロ時代の台湾が舞台の映画
2022年の台湾映画「流麻溝(りゅうまこう)十五号」を観ました。
これは、1953年、白色テロ時代の台湾が舞台です。
「白色テロ」とは、国家などの権力者による、反体制派への死刑をも含めた弾圧です。フランス革命時のフランス王家の象徴、白百合に由来します。
冤罪も多く、台湾での白色テロも9割が冤罪と言われています。
台湾の白色テロは、1949年から始まり、一般的には戒厳令が解除された1987年まで、厳密には「刑法100条」という、政府転覆を意図する罪が廃止される1992年までを指します。
日本など海外の教科書には載っていませんし、台湾の教科書にもほとんど載っておらず、2019年のホラー映画「返校」(白色テロを扱っている)まで、若い人は知らなかったということです。
コロナの影響と、今なお繊細なテーマから、出資が中止になり、クラウドファンディングで作った映画です。
知識層が目をつけられた
流麻溝十五号は、女性が収容されていた住所で、実話をもとにしたフィクション映画です。国から反体制派と見なされた人たちは、思想犯ということで、緑島(火焼島)の監獄に送られ、重労働をさせられ、拷問を受け、思想改造教育を受けることになります。
男女とも、学生や教師、男性は医師、女性は看護師などの知識層が目をつけられ、以前、読書会へ参加したということで、思想犯と見なされた人もいるようです。
この映画の主な登場人物(女性)は、絵を描くのが好きな高校生、小さな子供がいる看護師、ダンサーです。
高校生は学生組合に頼まれてポスターに絵を描いたことから、看護師は夫が社会主義者だったため、ダンサーは妹をかばって捕まります。
看護師は、職業的倫理観に則って行動し、女性の看守が足を滑らせて海に落ち溺れたときも助け、一緒に収監されている妊婦を助けたりもします。また、高校生に知識は力になるということで英語を教えたりもします。
けれども、この看護師は、助けた妊婦に裏切られて(裏切った妊婦は自分と子供を守るために)、処刑されてしまいます。
処刑前の写真に、国への抵抗のため、あえて笑顔で写るという実話から、この看護師も、笑顔で写ります。
権力にひれ伏さない者は認めない
「白色テロ」は、本来なら国の力になる、知識があり、正義感や倫理観、人間性をもつ国民を弾圧するという、非合理的な行動ですが、権力側からすると、知識があり、正義感や倫理観、人間性をもつ人たちは、それらに則って動き、権力になびかないことも多く、厄介だということにもなります。
台湾の白色テロは、日中戦争に勝利した国民党政府(蒋介石)の質が低く、汚職なども多かったため、台湾の民衆の暴動が起き、それを力で抑え込んだことから始まったようです。
教師や医師、看護師は、仕事に誇りと信念をもち、エリート学生も理想をもっていたため、権力にひれ伏すことがなく、権力側からすると、許せない人たちとなります。
この映画でも、看護師は、職業倫理に則った行動をしますが、妊婦は自分を守るため、看護師を裏切り、権力にひれ伏す行動をとります。
権力側は、「信念」で動く人よりも、「権力」になびき、ひれ伏す人のほうが望ましいと捉えがちです。
台湾の白色テロの場合、「中国共産党」への恐怖と嫌悪感があり、結果的に、中国共産党と同じ独裁制を敷くことになります。「反共産党」ということで、台湾の恐怖政治、国民への弾圧を、アメリカは黙認しました。
権力にひれ伏さないものは認めない、排除するというのは、企業や組織でもありますが、国家の場合、力が大きく(簡単に死刑にできる)、規模が大きく、国から離れるのは難しいという点があります。
いろいろな歴史を知ると、そこから学ぶことができ、映画だと分かりやすくてよいなと感じます。