笑顔の意味

先日、私のアンガーマネジメントの講座に来られた方から言われた。
「素敵な笑顔を作れるようになりたい。先生にも腹立たしいことや、つらいことが、たくさんおありでしょう。それなのに、素敵な笑顔。怒りやつらさを顔に出さないコントロール方法を学び、努力したい」

そこで、私は言った。
「私は、単純なので、腹立たしいときは腹立たしい顔を、つらいときはつらい顔をしています。笑顔のときは、楽しかったり、嬉しかったり、面白いときです。笑顔を作る努力をしたことはありません」

その方は、まさに「驚愕」の表情をし、その後、いろいろな会話をした。

「これまでずっと、笑顔は努力して作るもの、装うものだと思っていました」
けれども、顔がこわばって上手に笑えないとのことだった。

そこで、私は言った。
「基本、顔が自然に笑うとき以外、笑わなくてもよいと思います。
頑張って笑顔を作るよりも、楽しいこと、嬉しいこと、笑えることを増やしたほうがよいと思います」

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「笑う門には福来たる」というように、つらいときも笑っていると、だんだん楽しくなってくることはある。形から入るのもよいと思う。
けれども、これは人に対して作り笑いをするというよりも、むしろ、自分に対して笑う「自己暗示」「邪気払い(嫌な気持ちを払いのける)」ではないだろうか?

笑えるかどうかは、ものの捉え方にもよる。

以前取材した外食の経営者は、お客様に対しても、スタッフに対しても、私たちに対しても、本当に嬉しそうな表情だった。

その経営者は、以前、百貨店で、調度品の販売をしていたが、なかなか売れないし、入金までの期間も長く、知らないあいだに商品が壊され損失が出ることもあり、それが普通だったという。

けれども、現在は、「来られたお客様は100%食事をされ、100%お金を払って帰られます。『おいしかった』と喜んでいただき、またいらっしゃいます。
スタッフは、皆が、当たり前のように、まじめに働いてくれています。売り上げが上がる工夫をしてくれるし、仲もよく、本当によい人ばかり。
そして、今日は、あなた方が、たくさんある企業から、うちを見つけ、取材にいらっしゃった。本当に嬉しいですよ」

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ものの捉え方には、プラスの捉え方と、マイナスの捉え方がある。

コップに水が半分入っているとき、「半分も入っている」とプラスに捉えるのか、「半分しか入っていない」とマイナスに捉えるかは選べる。もちろん、ニュートラルに「半分入っている」と捉えてもよい。

そのときの状況に合わせて選んだほうがよい。

慢心を防いだり、リスクヘッジをしたいときは、「半分しか入っていない」と捉えたほうがよいが、元気を出したいときは、「半分も入っている」と捉えたほうがよい。

経営者は、往々にして、「半分しか入っていない」と捉えることが多い。
理想の状態からどれくらい足りないのか、減点方式、引き算で考え、達成したら、基準を上げ、満足することは少ない。それを、スタッフに対しても求めることが多い。

けれども、スタッフは、加点方式、足し算で評価されたほうが、モチベーションが高まることが多い。先の経営者の捉え方、笑顔は、好循環を生んでいる様子だった。

経営者に限らず、子供の教育や、人間関係などでも、できていること、良い点を、加点方式、足し算で捉えたほうがよいかもしれない。
とくに、「笑えることがない」という人は、意識的にそうしてみると、よいのではないだろうか。

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笑うには、面白いことを探してみるのもよいと思う。
「面白い」の語源は、夜が明けて、目の前が明るくなっていく状態だという説がある。
見えなかったものが見えてきて、次々に新しい発見ができるのが、面白い。

その説では、「面白い」の対義語は、「たそがれ」だ。
日が沈み、目の前が暗くなり、誰が誰だかわからなくなる状態。

子供など、日々新しい発見がある人は、笑うことが多いのではないだろうか?