「怒ってもよい」は間違い?

アンガーマネジメントでは、「怒る」のは悪いことではなく、「怒ってもよいのです」と研修やセミナーで伝えています。
怒りは自然な感情のひとつであり、意味があること、それは自分を守るための「防衛感情」であることを説明しています。

しかしながら、これに対して、ある人から「やはり怒ってはダメでしょう。自分のように怒りっぽい人は皆、出来るかぎり怒りたくないと思っているはずです。怒ってしまうとコントロールが出来ず、ひどいことにしかならないので」と言われました。

そして、話をしていくなかで、どうやら「怒る」の意味(定義)が違うことに気が付きました。

アンガーマネジメントでは、怒りには幅があること、軽くイラっとするレベルから、まあまあ腹が立つレベル、すごく頭にくるレベル、爆発レベルまであると説明しています。
0が穏やかな状態、10が人生最大の怒りとして、10点満点で点数をつけ、自分がどういうことで、どれくらい腹が立つのか、怒りの傾向を知るとよいことを伝えています。

しかし、怒りっぽいその人にとっての「怒る」の意味(定義)は、爆発レベル、キレることだったのです。
確かに爆発してしまえば、コントロールは出来ず、ひどいことになる可能性が高いでしょう。だから、怒りたくない、怒ってはダメだと思うのは分かります。

そして、その状態(爆発した状態)では、落ち着くように「6秒」は待てません。
6秒待つのは、もっと軽くイラっとしたレベルで、怒りの温度を上げず爆発しないように落ち着くためであり、逆だからです。

そういう意味では、「怒ってもよいが、爆発(暴走・キレる)はダメ」なのです。
怒るのは自然な感情なので、まったく怒らないようにすることは出来ませんが、爆発しないようにすることは出来、それがアンガーマネジメントです。

「もう怒りたくない」と思う出来事

「もう怒りたくない」という人の例を挙げます。

会議が10時からなので、9時50分に会議室に行ったら、前のグループがまだ使っている、そして、会議メンバーは誰も来ていない。
仕方なく10時まで待つが、やはり前のグループが使っていて、会議メンバーは誰も来ません。

「まったく皆、時間にルーズだよね」とイライラしながら、ドアを開け、「10時からここ使うんですけど」と怒った声で言う。
中の人たちは顔を見合わせるが、上役っぽい人が「だいたい結論は出たので終わりますかね」と言い、「ちょっと待ってください」と、5分ぐらいで片付けて「どうぞ」と出て行った。

「謝りもしないで。時間にルーズな人たちだな」とイライラするが、入って数分経っても誰も来ない。怒りが増し、自部署のフロアに戻り、「10時から会議!時間厳守!」と大声で怒鳴る。
けれども、メンバーは立ち上がろうとせず、顔を見合わせている。

そこでキレて、机を叩きながら暴言を吐く。
メンバーの一人が何か言い訳のようなことを言っていて、余計腹が立つ。「いいから移動して!」と怒りながら、皆を会議室に連れて行く。
会議を始めるが、皆の準備が整っておらず、より腹が立つ。

さらに、途中で、次に会議室を使う人たちが来て、何か言っている。
「時間まで待てよ」と思うが、皆、片付けを始める。おいおいと思うが、メンバーの一人が「予約が入っていたので」と言い、次の人たちに「すみませんでした」と声をかけて皆が出ていく。
何か言おうとしたとき、メンバーが「もともと会議は明日だったので、急な日程変更は、私たちも対応が難しく……」と言う。

何のことはない、明日の会議を今日だと勘違いしていたのだ。

こういう失敗は、怒った本人は「怒ってもよいのです」にはならず、「怒ってはダメでしょう」「もう怒りたくない」になるでしょう。

しかし、勘違いしてイラっとすることはあります。
また、自分の思い通りにならないときや、自分と違う考え・価値観の相手にイラっとすることもあります。
それらの怒りは自然に発生し、なくすことは出来ません。

さらに、自分が指導する立場にあり、これを放置することは出来ないと思うこともあるでしょう。あるいは、世の中の出来事や、制度や仕組みで、理不尽だと感じ怒りが生まれることもあるでしょう。
それらに対して「怒ってもよい」のです。

けれども、そこで、怒りの温度を上げてキレる方向に行くのではなく、心を落ち着かせて、冷静に対応する、どうしたらよいのか考え行動することは出来ますし、そうしたほうがよい結果が出るでしょう。

だから、「怒ってもよいのです」は間違いではなく、「キレる(爆発する・暴走する)のがダメ」なのです。