カスハラ防止とアンガーマネジメント

カスハラ防止の動きと、そもそもカスハラって何?

先日(2月20日)、東京都議会で、カスタマーハラスメント(カスハラ)防止に向けた条例を制定する方針が示されました。また、同日、北海道議会でも、最大会派の自民党道民会議が、同じく同条例の制定を目指した検討部会を設置したと発表しました。

そもそもカスタマーハラスメント(カスハラ)とは何か?

厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によれば、以下のようなものと考えられています。

顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの

つまり、顧客や取引先のクレームのなかでも「不当・悪質なクレーム」を指します。

東京都が考えている防止のための条例は、カスハラの具体例をガイドラインで示し、行き過ぎた行為は従来の刑法で取り締まることができるので、罰則は設けないとのことです。カスハラについての認識を高め、注意を促すことが目的と考えられます。

ちなみに、悪質なカスハラは、暴行、傷害、脅迫、恐喝、中傷、名誉棄損、侮辱、強要、威力業務妨害、不退去などの犯罪行為となります。

企業に求められる、カスハラ防止対策

企業においては、現在のところ、セクハラ、パワハラ、マタハラのような法律上の定義はないものの、「安全配慮義務」(労働契約法5条)にもとづき、従業員に対し、生命・身体などの安全を確保しつつ労働ができるよう配慮することが求められています。
そのため、従業員を脅かす「不当・悪質なクレーム=カスタマーハラスメント(カスハラ)」の対策を行なう必要があります。

先ほどの「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」には、具体的なカスハラの例や対策の必要性、対策方法などが掲載されています。

カスハラは、相手がお客様であり、企業にとって判断や対応が難しい面はありますが、適切に対応しないと、従業員や企業にマイナスの影響を与えます。
職場の心理的安全性が低下し、従業員の精神疾患、離職につながりますし、顧客や取引先との関係が不健全なものになると、企業経営に悪影響を及ぼします。

カスハラ防止のためには、企業の経営陣が人権意識を持ち、企業・組織として対応する必要があります。クレーム対応と合わせて対応ルールを作り、ロールプレイングを行ない、それに従って現場で管理職担当部署(法務、総務等)と連携して対応します。
現場でのケースに加えて、ネットへの書き込みでのクレーム対応、カスハラ対応もルール化しておくとよいでしょう。

アンガーマネジメントを活用しよう

そして、従業員向けに、そもそもなぜカスハラが起きるのか、「怒り」や「アンガーマネジメント」の観点から顧客の心理を知り、適切な対応方法を知る研修も行なうとよいでしょう。
とくに、カスハラで行き過ぎた行為になる前に、顧客の怒りに適切に対応し、怒りを拡大させないようにすることが大切です。

私が所属している日本アンガーマネジメント協会では、3年ほど前から「カスタマーハラスメント防止」の研修に力を入れています。さらに、以前から、顧客対応におけるアンガーマネジメントの方法も伝えており、私も研修を行なっています(川嵜のアンガーマネジメントの研修は→ こちら)。

ちなみに、次のような心理が強く働くとカスハラにつながります。

  • 自分はお客様であり、立場的に上。尊重されるべき(認められたい)
  • (常連客)自分は特別なお客様であり、特別扱いされるべき(優越感を得たい)
  • 自分が正しく、相手が間違っている
  • (たとえ正しいことの説明であっても)恥をかかせられたくない(プライド)
  • 強く言わないと(怒らないと)分からない
  • 強く言わないと(怒らないと)舐められる(威厳が示せない)

カスハラは、基本的に「自分は上の立場なのに、軽く扱われた」という気持ちから来ています。また、「相手は下の立場なのだから、自分の言うことを聞くべき」と思っているのに、相手に違うこと(正しい説明だったりする)を(偉そうに)言われ「恥をかかされた(プライドを傷つけられた)」と腹を立てられたり、日ごろの不満を八つ当たりされたりすることも多いです。

ストレスが多い現代、誰もがカスハラの加害者にも被害者にもなる可能性があり、カスハラにつながらないための対応、屈しないための対策が求められています。