選ぶ前に表示もされない時代

スペックで選べるものと選べないもの
最近、ノートパソコンを買いかえました。
「軽さ」「CPU」「メモリ容量」「SSDの容量」など、いくつかの条件を入力して絞り込むと、自分のニーズに近いものが見つかります。
パソコンのような道具であれば、求めるスペック(仕様、性能)で絞り込むのは普通です。
しかし、今の時代は、就活や婚活でも、人間が「スペック」で絞り込まれて、表示もされない時代になっているように感じます。
就職では、企業が応募者を選ぶ際、まずは履歴書やエントリーシートで条件を絞ります。学歴、職歴、資格、年齢など、一定の「スペック」に達していなければ、面接に進むことすらできません。
企業側も、応募者に選ばれていて、一定の条件に満たないと、表示されません。
婚活でも、年齢や年収、職業など、入力された条件からマッチする人だけが表示されます。
今後、マッチングアプリが婚活の主流になってくると、多くの人の条件と合致する「引く手あまたの人」と「表示すらされない人」の二極化がより進むでしょう。
人は道具、機械ではなく、スペックからは見えない魅力、価値観、成長性、可能性、企業やパートナーとの相性などがあるはずですが、より見つけにくくなっていくかもしれません。
便利なはずの最適化が奪うもの
そして、今は、AmazonなどのECサイトでは、過去の購買履歴や閲覧履歴をもとにおすすめ商品が表示され、SNSは、アルゴリズムが「あなたの好みに合うだろう」と判断した投稿を並べます。
つまり、自分が条件を入れなくても、最適化された情報が提供されています。
こうした最適化された情報提供は便利です。限られた時間の中で、自分に必要な情報にすばやくアクセスできるのは、タイパ(タイムパフォーマンス)という観点からはとても効率的です。
一方で、「フィルターバブル」「エコーチェンバー」と呼ばれる状態が進んでいます。
「フィルターバブル」は、自分にとって都合の良い情報ばかりの泡(バブル)の中にいる状態、「エコーチェンバー」(反響室という意味)は自分と似た意見だけが反響し、自分の意見が多数派で正しいと錯覚する状態です。
ネットが(AIも含めて)自分にとって都合の良い情報ばかりを提供するようになると、「リアルの世界」が、自分とは異なる価値観、考え、特性をもった人が闊歩する、居心地の悪い、恐ろしい場所に感じられてしまうかもしれません。
私たちはつい「効率よく選ぶこと」が正しいと思いがちです。けれども、本当の豊かさは、思いがけない出会いや、スペックにとらわれないつながりの中にあるのかもしれません。
たまには、あえて、おすすめではないものを自分で選んでみたり、偶然の出会いも、選択肢の一つとして受け入れてみたりするとよいかもしれません。
私自身、先日、本にまとめた「大切なことはベンチャー・リンクで学んだ」でも書いたように、ベンチャー・リンクに入社したきっかけは、まさに「偶然」でした。
よく考えると、先に決まっていた会社は海外が拠点で、海外での活動を目指していたので、理にかなっていたかもしれません。
それでも、ベンチャー・リンクのほうが面白そうだと思い、選びました。
実際に、たくさんの経験ができ、出会いがあり、あのときの「偶然の選択」は、悪くなかったと思います。
今は、「選ぶ前に表示もされない時代」。
スペックや条件からこぼれ落ちたものの中にこそ、思いがけない出会いや、本当の魅力があるかもしれません。
ときには、条件の外側にも目を向けてみると、あなたの心を動かす何かに出会えるかもしれません。