長崎大学リレー講座2013 杉山愛氏

 

今年も長崎大学リレー講座のシーズンとなりました。
そこで、ちっとも更新していなかったブログを、ようやく更新することにしました(笑)。

<セミナーデータ>
タイトル:長崎大学リレー講座2013 明日を創造する人材の条件
第1回 元テニスプレーヤー 杉山愛氏「夢をかなえる生き方」
日 時:2013年10月23日(水)19:00~20:30
場 所:長崎大学
主 催:長崎大学 共催:長崎新聞社

■杉山愛氏の講演内容

アウェイをホームに

テニスのシーズンは元旦から始まる。世界で大きな大会は、年間25~26あり、250日ぐらい。コミュニケーションは英語。

私は中学2年から海外遠征している。
17歳、高2年で、プロになった。その頃は、英語はだいたいわかるようになっていたが、大会前の記者会見など、テニスも英語も気になると負担が増えるので、もっと話せるように独学した。

日本は、町も安全できれい、道路も整っている。ご飯もおいしい。大会の運営もきちんとしている。けれども、海外では、予約していたバスや車が来ないこともあり、いい加減。それで自分の調子を崩さないように心がけていた。

選手同士は、有名な人以外、お互いに知らない。アウェイの世界。
そんななか、個人というより、日本代表という気持ちでやっていた。

コミュニケーションの取り方も日本の常識は通用しない。相手にストレートに言わないと、日本のように遠まわしに言っても通じない。

好きでない国もあったが、好きでないと思うと、気持ちやパフォーマンスが落ちるので、よいところに目を向けたり、ホテルの空間を、アロマオイルや香などで、気に入った場所にした。
ホテルを心地よい空間にして、オンオフの切り替えをする。
そうやってアウェイをホームに変えた。

自分と向き合う

小さなときからいろいろなスポーツをやっていたが、小2でテニスに絞り、世界で活躍しようと思った。トップ10に入ることが原動力となった。

2000年、プロ入りから8年、25歳のとき、ダブルスは絶好調で、世界ランキングナンバーワンになった。
けれども、シングルスは絶不調だった。私は、シングルスにこだわりがあり、絶不調で満たされなかった。

なぜダブルスが絶好調で、シングルスが絶不調ということが起きるのかというと、プレイスタイルがまったく違うから。
しかも、ツアーや練習がダブルス中心だったので、シングルスはスランプに陥った。

しかし、このスランプは、自分と向き合うことのできる、ありがたい時期ではあった。
やめようと思って母に相談したら、「やめても、他に何もできないんじゃない」と言われた。たしかにそうだし、自分はやるべきことをすべてやり切れていないと思った。

しかも、自分はどうすればいいのか見えないのに、母は「見えるわよ」と言った。確かに母にはフォームなどしっかり見えていた。

この時期、自分の精神的な甘さがわかり、自分を見つめることができた。自分磨きをしていこうと思った。

トップの人は精神面もトップ

テニスは、チャレンジングでやりがいのあるスポーツだが、メンタルスポーツと言われる。
最初は、私も精神的に追い詰められた。

世界のトップは、考え方も精神面もトップだと思った。
テニスは意地悪ゲームで、相手の弱いところを攻める。けれども、トップの選手は、それで自分の弱いところがわかるのがありがたいと言う。そして、変化させていた。ものごとのとらえ方がポジティブで、常に前進していた。

落ち込むと深みに入っていくので、オンオフのめりはりを心がけていた。
オフの過ごし方をどうするかで、ツアー生活を楽しめるかどうかが変わる。

私の座右の銘は、「遊戯三昧(ゆげざんまい)」という禅の言葉。
楽しいことをするのではなく、することを楽しむという意味。
目標達成に至るまで、試練もある。
けれども、試練だと思うときは、状況・状況、瞬間・瞬間を楽しんでいない。楽しくない、試練だと思うと、マイナスのスパイラルに陥る。
そこで、自分から状況を楽しむようスイッチをオンにする。気持ちの持ちようということ。

■杉山愛氏の講演 質疑応答部分

選手同士
英語は母国語ではないので、間違っても当たり前だと思っていた。
選手同士、250日ほぼ一緒に過ごすことになる。
大変なのは皆一緒。仲間意識が強い。かけがえのない友だちもできた。

自分を支えるもの
海外の選手は、大きくパワフル。それに比べて自分はと思うと、戦えない。
自分の得意なことを再確認して向き合う。
気持ちの強さが大事。常にエネルギーを下げない。
まわりのスタッフも自分を信じてくれている。家族、親友、サポートメンバーへの感謝を忘れないように心がけていた。

ダブルスのパートナー
私はシングルスにこだわりがあったので、ダブルスは、勝てる相手と組むという視点ではなく、気の合う選手と楽しい時間を過ごすという視点で選んだ。
信頼できるパートナーだと、仲が良いから本音が言える。違う意見でもとことん話す。
お互い調子の良い日、悪い日があるが、うまくいかないときも肩を落とさない。落ち込まない。エネルギー量を下げない。

国による観客のリアクション
国によって観客のリアクションが違う。日本は、選手に感情移入するので、ミスしたときに「はあ」という声が漏れる。気持ちはわかるが、選手はもっと「はあ」と言いたい。しかし、テンションを下げないようにしている。だから、「ドンマイ」とか「頑張れ」と声をかけてもらえればと思う。

元気にプレイするには?
ダブルスではいろいろなペアがいるが、私は、相手がミスしても、「はあ」と言わないようにしていた。「はあ」と言うと、萎縮して打てなくなる。だから、より元気に振る舞う。エネルギーを下げない。そして、次のポイント、次のポイントを考える。

基礎練習は大切だとは思うが、楽しくない。どうしたら楽しくなるのか?
基礎練習は楽しくないかもしれない。しかし、車いすテニス選手の国枝君は、基礎練習は楽しいと言っている。考えなくても体が勝手に動くようになるから。
そうなるまでの回数は2万回だと国枝君は言う。普通1万回と言われている。それだけやれば、本当に体が勝手に動くから楽しい。100回や200回ではない。

これからの若者に求めること
テニスは総合力。技術だけではなく、コツコツと地味な練習を積み重ねていくことや、コミュニケーション、人とのつながり、そして、何よりもポジティブなエネルギーが求められる。
これからの若者にも、一生懸命勉強し、一生懸命遊び、メリハリをつけることを望んでいる。

アウェイからホームへのきっかけ
最初は、栄養を考え、中華屋さんばかりに行っていた。けれども、2年ぐらい経ったら、その地域のおいしいものを教えてもらってそれを食べるようになった。
人と仲良くするだけがホームではない。

母への思い
母はエネルギッシュであり、教育熱心、熱いが、冷静。
スランプのとき、やめてしまいたいとき、「あなたならやれる。何をやればいいか、私は見える」と言ってくれた。
子どものときから、「社会からの預かり物」として考えてくれ、適度な距離感があった。こちらが言うまで待つ、靴ひもを結ぶのに20分待つということをしてくれた。

小学生にどういう教育を行なえばいいか?
私は4歳で好きなものが見つかり、7歳でこれしかないと思い、邁進できた。
いかに自分の好きなことに出会わせられるか、好きなことを見つけるサポートができるか。そして、潜んでいる気持ち、本当に考えていることをどう引き出すかだと思う。
私も、子どもたちがもっているものを引き出そうとコーチングを学んでいる。
(以上)

◆ ◆ ◆

杉山さんが何度も口にされたのが、
「エネルギー量を下げない」「テンションを下げない」「ポジティブにとらえる」、試練をも「楽しむ」ということ。
杉山さんは「トップは、考え方も精神面もトップ」と言われたが、私も、一流の人の特徴は、メンタル的に強いところだと感じる。

普通の人が、基礎練習を100回もやらないうちに挫けるのに、本当に楽しんで2万回基礎練習をできる。そこまでやる、しかも楽しく。
そうだろうな、そうだろうなと、何だかとても安心した(笑)。

過去の長崎大学リレー講座セミナーレポート
リレー講座 2012 為末大氏 日本マクドナルド社長 原田泳幸氏 寺島実郎氏
リレー講座 2011 東日本大震災後の日本を考える (2011年10~12月)
寺島実郎責任監修リレー講座 (2010年10~12月)