寺島実郎氏「世界の中で求められる新しい日本人像」

「長崎大学リレー講座2012」最終回は、寺島実郎氏でした。

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<セミナーデータ>
タイトル:長崎大学リレー講座2012 長崎からグローバルを考える
     第6回「世界の中で求められる新しい日本人像」
     寺島実郎氏(日本総合研究所理事長・多摩大学学長)
日時:2012年12月19日(水)19:00~20:30
場所:長崎大学
主催:長崎大学 共催:長崎新聞社


■寺島実郎氏の講演内容

今回のリレー講座のテーマは「長崎からグローバルを考える」ということだが、私は、空海が日本の国際人の原点だと思う。「空海?」と思われるかもしれないが、いろいろな文献を調べたところ、大変すごい人だということがわかった。
さらに、国際人の先駆けとして、鈴木大拙(※)、新渡戸稲造などが続く(※川嵜注:鈴木大拙は、禅に関する本を英語で書き、海外に禅の文化を伝えた仏教学者)。

空海は唐に渡っている。日本からいうと遣唐使だが、中国から見ると朝貢使節の一環だ。それが、空海は今でいうと、留学してMBAをとったぐらいじゃなくて、大学の学長になって帰ってきたようなもの。それくらいすごい。
当時の長安はグローバル都市だが、そのトップに立って日本に帰ってきている。

空海は、論理的なところなどから、理科系の人だったのではないかと思う。
真言密教の経典だけでなく、先端技術を日本に持ち帰ってきている。薬学、土木工学、冶金工学など。修験種智院は、技術を教える学校だ。

空海は、当時の日本の都心のど真ん中に活動の拠点をおき、高野山に精神の拠点をおいた。
彼は、一種のシステムエンジニアではないかと思う。組み立てて、システム化して、展開していく力をもっていた。

最澄は、空海に比べるとたいしたことのない人とも見られているが、最澄もすごい人だったと思う。
最澄はエリート中のエリートだ。最澄に比べ、空海は末席で遣唐使に行っている。その末席で年下の空海に、最澄は頭を下げて教えてもらう謙虚さがあった。また、自分の下にたくさんの人を育てている。

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新渡戸稲造は、明治期の日本から世界に飛び出していった人。
札幌農学校の2期生だが、クラーク博士には会っていない。なぜなら、クラークは、1期生の8カ月で帰国しているからだ。

クラーク伝説と現実というのがある。
クラークは、お金で雇われたアメリカ人の一人だが、血の騒ぐ人、やっかいな情熱家、山師的な性格であったと思われる。帰国後、訴訟沙汰になっている。8カ月で帰ったのがよかった。
1期生が語ったクラークのイメージが、会ってもいない人たちに伝わって、膨らみ、伝説になった。新渡戸稲造も会っていないのに、影響された一人。

新渡戸稲造は、多面性をもった人で、自分に誠実であるがゆえに鬱的でもあった。
新渡戸は、アメリカのボルチモアで、経済、文学、歴史を学んでいる。
超ベストセラーを出し、ものすごい大金持ちになって、6000坪の家を買っている。ベストセラーになった本は、よく知られている「武士道」ではなく、「世渡りの道」という立身出世のハウツウ本。
新渡戸は、世俗的な成功者であったため、内村鑑三に「堕落した」と言われた。内村鑑三は、内に内に向き合った人。
新渡戸は、日本人に目を開け、広い世界を見よと言っている。

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国際社会は、自己主張が吹き荒れるところ。そこで、日本の立場をどう説明するか。自己主張の嵐の中、苛立ちの中でのゲームである。きれいごとではすまない。
日本人で、国際社会で活躍している「プロジェクトマネジメント・スペシャリスト」は少ない。
多国籍軍を率いて、尊敬を勝ち得るのは難しい。メンバーは、自己主張が激しく自信家の人たち、専門性に優れている人たち、そんな人たちを率いていくには、宗教、思想、哲学など、きちんとしたものをもっている必要がある。

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「グローカリティ」という言葉がある。
グローバルに考えながら、地域性、アイデンティティをもっている。地域に愛着をもって、グローバルな視点で問題点を解決するあり方だ。

多摩大で、「多摩学」というのをやっている。多摩は、相模川と多摩川に挟まれた土地。ここに八王子という場所があるが、「千人同心」という、普段は農民で、何かあれば武器をもって戦う仕組みがあった。新選組に2人も送り込んでいる。
千人同心は、1800年に蝦夷地防衛にも行っている。

長崎も世界史につながる場所であり、これからは「グローカリティ」をもった人が求められる。

■片峰学長との対談から

・オランダは、実利を重んじる商人国家で、出島に来ていたのは、東インド会社という一企業。オランダの国の代表が来ていたわけではない。
・日本は17世紀のオランダ(黄金時代)を参考にしたほうがよい。
・さらに、今、オランダ、デンマーク、ドイツなど、北欧の経済は持ちこたえているが、これらの国は、まじめにコツコツと働くのをよしとするプロテスタント。何か示唆的な部分がある。
・私は、以前、「アメリカを見るのならオランダの目線で見ないといけない」と言われたことがある。欧州の視点で見ないと、確かに、正しい姿は見えてこない。
・戦後の日本人はアメリカを通じてしか世界を見ていない。けれども、欧州や中東、大中華圏などからの見方がある。一面的な見方ではなく、ネットワーク型で日本を考える必要がある。
たとえば、中国を考えるとき、本土のみならず、シンガポール、台湾など、華人、華僑の連結した中国、大中華圏で考えたほうがいい。
同様に、イギリスも、イギリスの影響力のある国、いわゆる英語圏を見る必要がある。

・長崎は、恵まれている故に気づいていないことも多い。
・地域活性のプロジェクトを立ち上げ、いろいろな人が参画するようにしたほうがいい。
・たとえば、3.11の後、防災のプロジェクトを行なっている。携帯、コンビニを活用するというものだ。水回り、トイレ、風呂などもユニットで考えればよい。泊まるのも、カプセルホテルの技術が使える。カプセルごと運べばよい。医療カプセルもできる。

・日本の現状で問題なのは、知的基盤が劣化しているということ。
昨年度の大学院卒は9万6千人。このうち2万4千人が無業者、3万人が非常勤。いわゆる高級フリーター。大学院を出ても働く場所がない。仕事の基盤が危うい。社会不安の原因にもなる。産業基盤を整える必要がある。

(以上)

          ◆ ◆ ◆

最終回は、寺島実郎氏でしたが、「長崎大学リレー講座」は、2010年9月に「寺島実郎責任監修リレー講座」として、寺島氏の協力のもとスタートしています。
スタートの年、2010年のテーマは「世界の構造転換と日本の進路」でした。

この2010年の7月末に、私は、26年間住んだ東京から長崎に引っ越し、良くも悪くも生活が一変するなかで、世界の変化の状況・行方、日本そして長崎の立ち位置の話はたいへん参考になりました。
私は、自分の環境が変化するのは苦手ではなく、私が働いていた会社も2003年頃から紆余曲折をたどっていて、ある意味、変化が日常になっていたのですが、ここ近年の世界、そして、日本の激変には驚くものがあります。
2008年、リーマンショックで世界が激変し、日本も影響を受けました。2011年には、東日本大震災が起こりました。

日本という国に乗っている自分や、その会社が動くのはいいのですが、国というベースそのものが動いて、変化が苦手な人まで巻き込んでしまうのは非常に忍びない気がします。
そういったなかで、つくづく感じるのは、世界が狭くなっている。そして、物事のスピードが速くなっているということ。
しかし、人が何かをやる際、うまくいくための「原理原則」「王道」は変わらない、ということも、今年、強く思いました。

■セミナーレポート
リレー講座2012 日本マクドナルド 原田泳幸社長為末大氏
リレー講座 2011 東日本大震災後の日本を考える (2011年10~12月)
寺島実郎責任監修リレー講座 (2010年10~12月)