なぜアメリカとイスラエルはイランを攻めたのか ― それぞれの国の思惑

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なぜアメリカとイスラエルはイランを攻めたのか?
この背景には、イランという国の成り立ち、イスラエルの思惑、アメリカの世界戦略、それぞれの指導者たちの国内事情が重なっています。

そもそもイランはどんな国?

まず、イランは、もともとペルシャと呼ばれてきた歴史ある国で、今もそのプライドがあります。
言葉は、中東や北アフリカで広く使われているアラビア語ではなくペルシャ語です。ペルシャ語のほうが古い言葉ですが、ペルシャ語はアラビア語の文字や語彙も取り入れています。これは、日本語が昔の中国の漢字を使っているようなものです。

国名はイランですが、ペルシャは海外からの呼び名なので、イランと呼ぶように、1935年にレザー・シャーが求めたことから変わっています。たとえると、日本が、海外にジャパンと呼ばず、日本と呼ぶように求めたようなニュアンスです。
ただし、イラン人=ペルシャ人ではなく、現在、アゼルバイジャン系、クルド系、ルル(ルリ)系、バローチ系、アラブ系が含まれます。

また、イランの人たちは最初からイスラム教を信じていたわけではありません。もともとはゾロアスター教が広がっていて、イスラム教化は7世紀以降、時間をかけて進みました。
そして今のように「イラン=シーア派の国」という形がはっきりしたのは、16世紀のサファヴィー朝がシーア派を国家の柱にしてからです。

ちなみに、シーア派は、イスラム教徒の10~15%と少数派ですが、イランでは9割以上がシーア派です。シーア派が多い国はイランのほか、イラク、バーレーン、アゼルバイジャン、レバノンなどです。

シーア派は、後継者はムハンマド(かつて日本の教科書ではモハメッド、マホメットとも表記)の血統を重視し、礼拝は1日3回、メシア思想、殉教思想を重んじますが、宗教指導者の肖像画はOKです。
スンニ派は、後継者は血統とは関係なく実力のある人で、礼拝は1日5回、メシア思想や殉教思想は薄く、肖像画は偶像崇拝としてNGです。
以上の違いがあります。

つまりイランには、「自分たちは単なる中東の一国ではない」「アラブ世界とは違う歴史を持つ」という意識があります。この歴史的な誇りは、いまの政治や対立の空気にも無関係ではありません。

大統領より上に最高指導者と革命防衛隊がある

しかも、今のイランはかなり閉じた体制です。

選挙はありますが、国の大きな方向を決めるのは、選挙で選ばれた大統領や議会ではありません。最高指導者と、その周辺にある強い権力が大きな力を持っています。その中でも重要なのが革命防衛隊です。

革命防衛隊は、イランの国軍(正規軍)ではなく、1979年のイラン革命後に出来た軍隊で、軍事だけでなく、経済や政治にも深く入り込んでいます。

この革命防衛隊については、水問題でも名前が出てきます。イランでは水不足が深刻ですが、そこには気候だけでなく、ダム建設や水資源開発をめぐる失政や利権があると指摘されています。
カーネギー国際平和財団は、革命防衛隊系企業セパサドが、水を守ることよりも政治力や利益を優先し、一部では「ウォーター・マフィア」とまで呼ばれていると述べています。

つまりイランは、外に強硬なだけでなく、内側でも古い支配構造が強い国なのです。

なぜ今、イスラエルはイランを叩くのか?

では、イスラエルはなぜ今、イランを叩くのでしょうか。
イスラエルは、ガザでハマスに大打撃を与え、レバノンではヒズボラも大きく弱らせました。それなのに、なぜさらにイランを攻撃するのか?

イスラエルから見ると、ハマスやヒズボラはあくまで「手足」で、その後ろにいる「本体」がイランです。本体を叩かないと、いずれまた別の形で脅威が戻るという恐れがあるのです。

しかも、イランの代理勢力が弱っている今、イランは全面参戦に慎重でした。
イスラエルにとっては、今がチャンスであり、核や弾道ミサイルという脅威を持つイランを今のうちに弱体化させておきたいという思惑がありました。

ネタニヤフ首相が戦争を長引かせたい理由

そして、もう一つ見逃せないのがネタニヤフ首相自身の事情です。

イスラエルでは、戦争中だから自動的に選挙がなくなるわけではありません。しかしながら、戦争だと「今は政権を代える時ではない」という空気は生まれやすくなります。
2025年3月には、イスラエル議会が予算案を初期承認し、ネタニヤフ政権は当面の早期解散を避けました。予算が通らなければ解散・総選挙につながる仕組みなので、これは政権にとって重要でした。

また、ネタニヤフ首相の汚職裁判は続いていますが、2025年6月には、イランとの戦争後の外交・安全保障上の事情を理由に、審理延期を求める動きがありました(却下されましたが)。裁判が消えるわけではなくても、「いまは国家危機が優先だ」と言いやすくなるのは確かです。

ちなみに、2026年3月にイスラエルで行なわれた世論調査では、約8割(ユダヤ系に限ると9割)の国民がイランへの攻撃を支持しています。

アメリカはイランをどう見ているのか?

一方、アメリカにもアメリカの思惑があります。
表向きは、イランの核保有を防ぐこと、ミサイルを抑えること、イスラエルを守ることです。これは確かに大きな理由でしょう。

しかし、それだけではないはずです。
イランはここ数年、ロシアや中国にとって大事な相手でした。
「イランを弱めれば、ロシアや中国の中東での足場も揺らぐ」という計算があっても不思議ではありません。

ロイターは、今回の戦争では、ロシアも中国もイランを直接助けず、距離を取っていて、イランが孤立していると伝えています。ロシアはウクライナ戦争で余力が限られ、中国は湾岸諸国との関係やエネルギー安定を重視しているからです。

アメリカは、ベネズエラのような「レジームチェンジ(体制転換)」「親米政権化」を狙ったということも言われています。これは、そうなる可能性もあったかもしれませんが、それほど簡単ではありません。むしろ外から攻撃されることで、イラン国内の強硬派がさらに結束することも事前に考えられたでしょう。

ですからアメリカの本音は、「親米化」そのものより、イランの体制中枢に打撃を与え、軍事拠点を叩くことで、ロシアや中国に警告を与えたいというほうが近いのかもしれません。

国家は理屈だけでなく感情でも動く

以上のように、アメリカとイスラエルがイランを攻めた背景には、核問題だけでなく、それぞれの国の歴史、国の仕組み、指導者の都合があります。

そのうえで、私が気になるのは、国家もまた感情で動くということです。
それぞれの国が、基本的に何を恐れ、何を守ろうとしているのか、どんなプライド、自信、野望があるのかという心理も見たほうがいいと思います。

イスラエルは、国の成り立ち(パレスチナを武力で制圧し、領土を拡大、既成事実化)から、周りは敵だらけのため、復讐される恐怖と「ぜったいに国を守る」という心理があります。他国のように「万一のための軍事力」ではなく、軍事力そのもので国を作り、敵にやられる前に叩きのめすことで国を守ってきたので、その自信もあります。

アメリカは、イスラエルを強く支持する政治勢力やロビー活動の影響が大きく、政界でも超党派でイスラエル支援が重視されてきました。そうした国内政治の事情もあり、アメリカにとってイスラエルは簡単に切り離せない存在です。そのため、「イスラエルを守る」必要があるのと、「世界に弱く見られるのはよくない」というプライドもあります。

イランには、「ここで屈したら、自分たちの正しさも体制も崩れる」という不安とプライドがあります。

イランをめぐる戦争の背景には、歴史、宗教、国の仕組み、指導者の事情、そして恐れやプライドが重なっています。
しかもその影響は、エネルギーや物価を通して、私たちの暮らしにも跳ね返ってきます。
そう考えると、この問題は中東の戦争であると同時に、人も組織も国家も、なぜ引けなくなるのかを考えさせる問題でもあるのではないでしょうか。