国も感情で動く? ―― 台湾有事を“心の動き”から考える

高市首相の発言と、それに対する中国の反発から一気に注目度が高まった「台湾有事」。
台湾の大使館にあたる台北駐日経済文化代表処による調査(12月1日発表)では、日台間で最も懸念される問題として「台湾海峡情勢」が49.6%で一番になっています。
この台湾有事は、もちろん国家間の軍事や外交の問題ではあるのですが、同時に、国と国の感情がぶつかり合う出来事とも言えます。
すなわち、私たちが日常で経験する「怒り」や「不安」と似た構造をしているのです。
国にも人と同じように感情がある?
国家は冷静で合理的に動いているように見えます。
しかし実際には、
(国民や政治家の)感情 → 世論や野望 → 政治判断 → 行動
という流れで物事が進むことが少なくありません。
人は、強い感情を抱いたまま判断すると、後から「なぜあんな決断をしたのだろう」と後悔することがあります。国も国民や政治家(権力者)など、人の集まりなので、同じ結果を招くことがあります。
大切なのは、出来事そのものよりも、「何が刺激されて感情が動いたのか」を見ることです。
台湾有事に関して、中国、アメリカ、日本の“心の動き”について考えてみましょう。
もちろん、中国、アメリカは、戦略性をもって動いています。
中国は、30~100年という圧倒的長期の明確な国家の目標をもっていますし、アメリカも政権は変わっても、大きな戦略は国防・外交・産業のエリート層で共有され、少なくとも10~30年の国家戦略を維持しています。
けれども、その戦略の背景にも感情があります。
中国の感情 ―― 台湾は「心に残ったままの問題」
中国にとって台湾は、単なる一つの島という存在ではありません。
そこには、分断され、取り戻せていないという思い、「本来は一つであるべきだ」という強い意識があります。
この背景にあるのは、怒りだけでなく、恐れや不安、無力感といった感情です。
こうした感情は、時間が経てば自然に消えるものではありません。むしろ、長く抑え込まれるほど、大きな形で表に出やすくなります。
中国共産党は、中華人民共和国の建国時から、台湾統一を「使命」と位置づけています。そこには、中国の「天命思想」による正統性へのこだわりもあるかもしれません。
そして、習近平氏にはその偉業を成し遂げて歴史に名を残したいという強い野望があります。
アメリカの感情 ―― 相手を刺激しすぎないための選択
一方、アメリカの側にも感情があります。
それは、今の国際秩序が崩れることへの恐れです。
だからアメリカは、台湾を必ず守るとも言わず、見捨てるとも言いません。
はっきりしない態度に見えますが、これは感情を刺激しすぎないための選択でもあります。
相手を強く怒らせず、かといって、何でも許すわけではありません。
微妙な距離感を保とうとしているのです。
日本の感情 ――「基本的に考えたくない」からの変化
では、日本はどうでしょうか。
日本社会には、戦争への強い恐怖があります。
これまでは「できれば関わりたくない」という気持ちから、アメリカよりもさらに相手を刺激しない路線をとってきました。
実際には、地理的な位置や米軍基地の存在、経済とのつながりを考えると、台湾有事と無関係ではいられないことも事実です。
その不安はあるけれども、むしろ、不安があるがゆえに、正面から向き合うのを避け、目をそらしてきました。
相手を怒らせないように最大限に気を遣い、顔色をうかがってきたのです。
しかし、今回、高市政権になり、目をそらさずに、事実を見つめて冷静に対処するという動きになってきています。
台湾有事が起きたとき、日本が直面する現実
もし台湾海峡で緊張が高まれば、日本は次のような影響を受けます。
- アメリカからの協力要請
- 中国からの(軍事的なことも含めた)より強力な圧力
- 米軍基地への影響
- 経済や生活への影響
- 世論の分裂や対立
ここで大切なのは、何かが起きるまで目をそらして「何も決めない」という選択はもはや賢明ではないということです。
不安だから「基本的には考えたくない」「できれば関わりたくないこと」から目をそらさずに、起こりうる事実を見つめて冷静に準備するほうが、国としても、人としても、リスクヘッジになります。
国家としての戦略を語らないことで守ってきた
戦略性に関しても、日本は戦後、国家としての明確な戦略を持ち、語ることを避けてきました。
アメリカから守ってもらうことで、国家としての「安全・防衛」について考える必要がなくなったためと、「戦略」「国益」といった言葉が、「戦争を連想させる危険なもの」として避けられるようになったためです。
国家としての戦略を語らず、何事も明確にしないことは、戦後日本が生き延びるために身につけた防衛手段だったとも言えます。
また、高度経済成長期は、国家の戦略について考えなくても問題はなかったのです。
しかし、時代は変わりました。
今、必要なのは「感情を整理し、備える視点」
怒りや不安は、なくそうとしても消えるものではありません。
大切なのは、
- 何が怖いのか
- 何に怒りを感じているのか
- 何を守りたいのか
こうした感情を、言葉にして整理しておくことです。
そして、冷静に備えることです。
それができていないと、強い出来事が起きた瞬間、極端な判断や、後悔の残る選択をしやすくなります。
台湾有事という「不安」「できれば関わりたくないこと」は、ある意味、感情をどう扱うかという問いを、私たち自身に突きつけています。
怒りや不安を否定せず、落ち着いて見つめ、整理すること。それは、個人だけでなく、社会全体にとっても、これからますます大切になっていく力なのではないでしょうか。

