日本はどこへ向かうのか? ―― 高市政権が目指すものと、その可能性

前回、国家もそれぞれの「べき」で動いていると書きました。
アメリカも中国もそれぞれの「べき」を前提に、何かを守るための行動をしています。
それでは、日本は、何を「守るべき」と考えているのでしょうか。

高市政権が打ち出した方向性

高市政権が掲げているのは下記です。

  • 積極財政(=景気を良くするために、国がお金を使う)
  • 経済安全保障の強化(=生産や輸入など他国に依存し過ぎず、経済を回す)
  • 防衛力の強化(=抑止力を高める)
  • 戦略分野への重点投資(17分野)

17分野は、下記です(イラスト参照)。

  1. AI・半導体
  2. 造船
  3. 量子
  4. 合成生物学・バイオ
  5. 航空・宇宙
  6. デジタル・サイバーセキュリティー
  7. コンテンツ
  8. フードテック
  9. 資源・エネルギー安全保障・GX
  10. 防災・国土強靭化
  11. 創薬・先端医療
  12. フュージョンエネルギー
  13. マテリアル(重要鉱物・部素材)
  14. 港湾ロジスティックス
  15. 防衛産業
  16. 情報通信
  17. 海洋

戦力分野においては、複数年度にわたる予算措置で検討することとなっています。
それというのも、これまでは、プライマリーバランス(財政収支)の単年黒字化目標(=年度内に黒字にする)を掲げていたため、長期にわたり育てていくという投資は難しかったのです。

「失われた30年」との違いは何か?

ここで重要なのは、これまでの30年との違いです。
いわゆる「失われた30年」の間、日本政府は、下記の路線を取ってきました。

  • 緊縮財政(=お金を使わない)
  • 増税(=財源を確保する)
  • 市場に介入しない(=民間への積極的な投資をしない)
  • 国際分業の方向へ(=国内の工場ではなくコストの安い国で生産するよう進める)

これは、下記を守ろうとしたからです。

  • 財政の安定(国家の信用)
  • 金融秩序(銀行と通貨)
  • グローバル化の秩序(国内製造より海外生産)
  • 高齢化社会への対応(社会保障)

言い換えれば、「マクロの安定」を守るための、合理的な判断でした。
けれども、問題は、この体制が長期化して、下記のような、民間の活力を削ぐ結果につながった側面です。

  • 低成長の固定化(=産業がずっと成長しない)
  • 実質賃金の停滞(=賃金が上がらない)

派遣労働の拡大も、労働市場の柔軟化という目的がありましたが、下記の構造が生まれました。

  • 非正規雇用の増加(=賃金が安く、雇用が不安定)
  • 賃金上昇の抑制(=賃金が上がらない)
  • 消費余力の低下(=国民がお金を使う余裕がない)

企業は、自社を守るため、内部留保を厚くする(=貯金を増やす)傾向を強め、成長への投資(設備投資、研究開発)が十分に回らなかった側面もあります。その結果、国際競争力の低下にもつながっています。

高市政権の「べき」と目論見

高市政権の政策は、これまでの国家のあり方

  • 財政の安定を守るべき(=国が使えるお金をキープしておく)
  • 市場に過度に介入すべきではない(=民間のことにあまりお金を使わない)

から

  • 企業の成長を促すべき(=国のお金を企業の成長に使う)
  • 国力を底上げすべき(=中小企業など民間の力を上げる)
  • 戦略分野には関与すべき(=可能性の高い分野に関わり支援する)

という方向への転換です。

つまり、これまでの経済の縮小と税収減、社会保障費の増大が相互に影響し合う構造的な悪循環を止めようということです。
「守る国家」から「育てる国家」への転換であり、「ミクロを動かす国家」へのシフトとも言えます。

理想と現実のはざまで

防衛力の強化に関しても、これまでの

  • リスクを避けるべき(=武器を持たず、刺激しないほうが安全)

から

  • 抑止力を持つべき(=反撃能力を示したほうが攻めてこない)
  • 自国を守る力を持つべき(=反撃できるようにする)

への転換を図ろうとしています。

「戦争に向かっているのではないか」という声もありますが、周辺国が軍拡を進めるなか、理想(=武器を持たず、刺激しないほうが安全)で国を守れるのかという問いかけもあります。

欧州は、冷戦後、「開かれた社会」を理想とし、「軍事よりも対話」を優先する姿勢を持ち、国境を越えた人の移動の自由、多文化共生政策を取り、移民を受け入れました。けれども、急速な移民受け入れの中で、統合の難しさが議論されています。

そういった世界情勢を鑑みて、高市政権は、アメリカ的な「リアリズム(現実主義)」を意識しながらも、これまで日本が守ってきた、国際法、国連、G7、WTOなどの「国際秩序へのコミットメント」と、「力の支配」ではなく「法の支配」を重視しています。

理想と現実の間で、何を守り、何を育てるのか。
それを決めるのが、「国家のべき」です。
日本は今、その再定義の入り口に立っていると言えるでしょう。
その再定義は、財政や防衛の問題であると同時に、私たち一人ひとりが、何を守り、何を未来に託すのかという問いでもあります。