長崎大学リレー講座2011 第7回 金澤一郎氏

リレー講座最終回は、基調講演とパネルディスカッションが行なわれました。
共通のテーマは、「大学が担うべき役割」。
基調講演は、金澤一郎氏により「東日本大震災のまとめ」「他県にない長崎県の特質」「長崎大学が担うべき役割」などが語られました。<セミナーデータ>
タイトル:長崎大学リレー講座2011 東日本大震災後の日本を考える
第7回「大学が担うべき役割」
基調講演:金澤一郎氏(宮内庁長官官房皇室医務主管、国際医療福祉大学大学院長)
パネルディスカッション
日時:2011年12月8日(木)18:00~20:30
場所:長崎大学
主催:長崎大学 共催:長崎新聞社

■基調講演 金澤一郎氏東日本大震災のまとめまず共通認識のために、東日本大震災を振り返ると、最初に、マグニチュード9.0という大変な規模の「地震」が起きた。
そして、次に「津波」が起こり、2万人近くの人々が亡くなった。この犠牲者で60歳以上が60%を超えており、人口比の2倍であった。
その次に起こったのが「福島第一原子力発電所の事故」だ。これは、地震そのものによって原発がダメージを受けていたかもしれないという指摘もある。

東日本大震災によって我々が学んだ問題は、まず「危機管理の問題」。官邸での管理が的確ではなかったという議論がある。総理が個人的に科学者A、科学者B、科学者Cと別々に話はしているが、科学者A、B、Cが揃って協議をすることはできなかった。
そして「放射線被ばくの問題」「防災の問題」「復旧・復興の問題」「今後のエネルギーの問題」「国際社会との情報共有の問題」などが挙げられる。

他県にない長崎県の特質

次に、大学の担うべき役割に関連して、他県にない長崎県の特質を見ていきたい。
まず、長崎県の地形。「海洋に囲まれ、島が多く、地形も複雑」だ。島は971もあり、海岸線の長さは、都道府県では、北海道に次いで2番目の長さだ。長崎県は、海岸線から15キロ以上離れたところはないという特徴をもつ。
そして、「自然災害が多い」。1957年の諫早地方の豪雨による水害、1982年の長崎市の豪雨による水害、1990年から1991年の雲仙普賢岳の噴火と火砕流などが挙げられる。
また、長崎は「西洋文化、西洋医学伝来の地」でもある。オランダ海軍軍医のポンぺが、長崎において西洋医学の伝習を開始し、日本の若者を育てた。我が国が、それまでの漢方を捨てて、西洋医学に絞ったのは、ポンぺの活躍にあったと言われている。
さらに、地図を見ていただくとお分かりのように、長崎は「アジアの玄関口」に位置する。飛行機で東京に行くよりも上海に行くほうが早い。中国、韓国と容易に行き来することができる。
それから、長崎は「原爆の被害を受けた」という過去がある。原爆の医学的影響など、後世に伝える重要な役割をもっている。
これらの特質を意識して「長崎大学だからできること」「長崎大学だからこそやらねばならぬこと」を考えたい。

長崎大学が担うべき役割

東日本大震災が提起した問題を中心に、長崎大学が担うべき役割を考えてみたい。
まず「危機管理の問題」からいくと、将来起こるかもしれない災害に対する備えのリーダーシップということがいえる。

長崎は、日本が鎖国をしているときにも、唯一開けられた窓であった。外からは良いものばかりではなく、悪いものも入ってくる。そのひとつが「感染症」だ。感染症が入ってくるとともに、予防や治療のための西洋医学の技術も長崎から広まった。
片峰学長は、危険度の高い病原体を扱うBSL4(バイオセイフティーレベル4)の施設を設置する可能性を考えているという。日本にはこの施設はないが、風土病などの研究を60年以上も続けている長崎大学の貢献を期待したい。

次に「放射線被ばくの問題」。放射線に関しては2つのリスクがある。リスクをリスクと思わないリスクと、ゼロリスクを求めるリスクだ。国民の理解の度合いは残念ながら低い。この30年間、放射線の教育がされてこなかったことも理由だ。私は、放射線は、正しく理解し、冷静に恐れるべきものだと思っている。科学者にもいろいろな人がおり、国民にいかに理解してもらうか大変だ。

「防災の問題」として、日本は海に囲まれており、今回のように、海は自然災害も引き起こす一方で、豊富な海洋資源、海底資源の宝庫でもある。
この両方の研究が必要だが、長崎大学には、それがある。防災関連の研究や実践とともに、海洋関係の学術研究と教育が行なわれている。それらを、どのように維持し、全国的に利用できるようにするかが課題だろう。

「復旧・復興の問題」では、震災後、長崎大学は迅速に動き、岩手県、宮城県での医療支援、福島県での緊急被ばく者医療に加え、支援物資供給のため、練習船「長崎丸」を出しており、賞賛に値する。
私は宮城県岩沼市の復興計画をつくる委員長もしているが、大切なことは、産業を復興させ、まちを活性化させるためには、新しいことを考え、人が集まってくるようにする必要があるということ。

「今後のエネルギーの問題」に関して、日本学術会議が、原子力への依存度の度合いから6つの選択肢をまとめている。日本は再生可能エネルギーの開発にほとんど投資していないというのが現状だ。エネルギーの問題は国家レベルの問題ではあるが、地方自治体がそれぞれ違った環境条件を抱えており、地方の問題でもある。大学が持てる力を結集すべき問題だといえる。

「国際社会との情報共有の問題」だが、政府機関のひとつである日本学術会議にも、今回、政府から原発事故に関係した情報は一切提供されなかった。こういった情報共有がなされないと、国際的な情報発信も遅くなり、信頼の低下につながるだろう。
長崎大学は、既にアジア諸国や、大学との連携活動を行なっているが、情報共有は極めて重要だといえる。

最後に、私の個人的な期待として、長崎大学は、長崎県立大学などとともに、長崎県に対する「知の集団」であり続けてほしいと思っている。具体的には、日本学術会議のような仕組みをつくられることを提言したい。日本学術会議は、昭和24年に国の特別の機関として、内閣総理大臣の管轄の下に設置された。「政策提言」「国際的活動」「科学リテラシーの向上」「科学者ネットワーク構築」という役割と機能を果たしている。長崎大学も、長崎県の知の集団として「県政への政策提言」「対アジアの国際的活動」「県民の科学へのリテラシーの向上」「科学者ネットワーク構築」という役割と機能を果たしていただきたい。
(以上)

→ パネルディスカッション