「ザ・パワー」を読んで思い出した本、「フィッシュ!」など3冊
「ザ・パワー」を読んで、思い出した本があります。
「フィッシュ! 鮮度100%ぴちぴちオフィスのつくり方」(スティーヴン・C・ランディン、ハリー・ポール&ジョン・クリステンセン著/早川書房)と「魚が飛んで成功がやってきた ― FISH!の社長が自ら明かす活きのいい組織のつくり方」(ジョン・ヨコヤマ、ジョセフ・ミケーリ著/祥伝社)、そして、「大きな結果をもたらす小さな習慣」(ハリー・ポール、ロス・レック著/かんき出版)です。
最初の2冊は、シアトルのパイク・プレイス魚市場を舞台にした本です。そして、最後の1冊は、「フィッシュ!」の著者の一人、ハリー・ポールの次作です。
「フィッシュ!」の概要は、「訳者あとがき」がわかりやすいので引用します。
「ストーリーはいたってシンプルだ。ふたりのおさない子どもをもつシングルマザーであるメアリー・ジェーンが、大手の金融機関のマネジャーに抜擢され、”ごみ溜め”と呼ばれるほどやる気のないスタッフが集まった自分の部署を、なんとか改善しようと奮闘する。そのためのヒントを、彼女はなんと魚市場から得るのだ。
ここに登場するパイク・プレイスの魚市場は、シアトルに実在する。著者たちがあるときそこを通りかかり、活気に満ちた楽しげなその雰囲気にひかれ、何がそれをもたらしているのかをさぐった。(略)そのノウハウを伝えるビデオを製作した。(略)ベストセラーとなり、数々の賞も受賞した。それを本の形にしたのが本書である」
そして、「魚が飛んで成功がやってきた」の本は、副題のとおり、「フィッシュ!」の舞台である、パイク・プレイス魚市場の経営者、ジョン・ヨコヤマが、倒産の危機から立ち直ったばかりの自分の魚屋を、世界的に有名にするために行なったことを語った本です。
ジョン・ヨコヤマは、友人の夫であるビジネス・コンサルタント、ジムの申し出を半信半疑で受けます。そして、スタッフ・ミーティングをしているうちに、「自分たちの考えていることがあまりにも小さいことに気づ」き、スタッフの「世界的に有名になってやろう!」という考えを追求してみることにしました。
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「フィッシュ!」で、メアリー・ジェーンが任されたのは、スタッフたち自らが、退屈でつまらない裏方の仕事だと思っている部署。仕事をちゃんとやってもだれも気づいてくれないのに、間違いがあると怒られ、批判される。そんな類の仕事のため、活気がなくてモラールが低くなっていました。
「みなのろのろと短い時間仕事をして、薄給をもらっている」「まるっきりやる気がない」「新しくきた人もすぐにやる気を失ってしまう」
そういったオフィスを生まれ変わらせるため、メアリーが魚市場から学んだ秘訣は4つ。
・態度を選ぶ:つねにポジティブな姿勢で出社するように心がけること
・遊ぶ:オフィスが活気にあふれるような遊び方を取り入れることが大事
・人を喜ばせる:顧客や同僚に対してエネルギッシュな楽しい雰囲気で接しよう
・注意を向ける:人があなたを必要としている瞬間を逃さぬよう、いつも気をくばろう
「フィッシュ!」で、魚屋の店員、ロニーは「態度を選ぶ」ことに関して、次のように言っています。
「魚市場の仕事は寒くて、びしょびしょで、くさくて、汚くて、やりにくい。でもその仕事をするあいだにどんな態度をとるかは選択できる」
「不機嫌な態度をもちこんで、憂うつな一日をすごすこともできる。ふてくされてやってきて、仲間やお客にいやな思いをさせることもできる。あるいは明るいほがらかな顔であらわれて、一日を楽しくすごすこともできる。どんな一日を送るかは、自分で選べるんだ。それについてみんなでさんざん話しあって、どうせ仕事にくるなら、できるだけ楽しくすごしたほうがいいと気づいた」
まさに、「ザ・パワー」の”良い感情(良い気分)でいれば、ものごとが好循環し、悪い感情(悪い気分)でいれば、ものごとが悪循環する”ということに通じると思います。
また、ロニーは、「遊ぶ」ことに関して、次のように言っています。
「商売だから、利益をあげるのが目的だ。(略)でも真剣に仕事をしながらも、やりかたしだいで楽しめることもわかった」
これも、「ザ・パワー」では、「人生のどんな問題に対しても、気分良く感じられるようになる確実な方法が一つあります。それは想像を使って遊ぶゲームを作り出すことです。遊びは楽しいものです。遊ぶと本当に気持ちよくなります」、そして、「気分が高まるとビジネスも回復します」といっています。
さらに、「人を喜ばせる」に関して、メアリー・ジェーンは日記に次のように書きます。
「魚市場ではお客もいっしょに遊ぶようにしむけられる。参加をうながす雰囲気があるのだ」
そして、「注意を向ける」に関しては、「魚屋の店員たちはつねに注意している。(略)まわりの人たちに気をくばり、お客と交流している」と書きます。
「ザ・パワー」のまわりの人たちに「愛を与える」というのは、すなわち、このようなことだと感じました。
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一方、「魚が飛んで成功がやってきた」には、「かつて、パイク・プレイス魚市場は非常に険悪な雰囲気に満ちた職場だった。私(経営者)があまりにも怒鳴るので、店員が泣きだしてしまったこともある」とあります。
「かつての私は絶対権力者として魚屋を経営し、情け深い人間であることはほとんどなかった」「私が不満を抱えていると、パイク・プレイス市場中にそれが伝わった。当時の私は、感情をコントロールできないまま人を扱っていた」
すなわち、経営者自らが「悪い感情(悪い気分)」でいたため、ものごとが悪循環していたのです。しかし、「世界的に有名になってやろう!」という夢を持ってから、経営者もスタッフも変わります。
世界的に有名になるとは、「自分たちが出会う一人ひとりの人間に積極的にアプローチしてよりよい影響を与えることによって、結果的に得られるものではないかと、だんだん確信するようになった」といいます。
それに関して、コンサルタントのジムは次のように言っています。
「世界的に有名になるには、私たちが接する人たちによりよい人生をもたらす必要がある。目的は単に有名になることではない。たとえお金にならないことでも、客に通常以上にすばらしいサービスをし、そのこと自体を楽しむ。そうすれば、世界的に有名になれるだろう」
そして、パイク・プレイスは、「店員が魚を投げ、集まった人を喜ばせるというパフォーマンスが、世界中に放送され」、企業向けの研修ビデオとなり、13カ国語に翻訳され、たちまち有名になります。
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パイク・プレイスの成功の基本となっているのは、次の8つの要素だといいます。
一 組織としての能力と可能性に関するビジョンをつくる。
無謀に思われる強力なビジョンも「自分たちで創造したものであるとみんなが認識」すれば、チャレンジできる。
二 個々の従業員のやるべきことを集約し、ビジョンの実現のためにチームとして調整する。
「ビジョンをはっきりと理解し実感できたなら、次は、それに基づいた実行の段階である」。目標を設定し、その目標によって、何ができるか明らかにし、「それぞれの従業員が仲間に対して公の場で」宣言する。
「私たちは、本質的に仕事に役立つ最も重要な条件は、自分自身を見つめ、他人の意見に耳を傾け、人間的に成長していこうとする意志だと信じている」
「人間は働く動機を与えたり、働くよう説得する対象ではない。基本的に人間はクリエイティブな存在なのだ。いったん従業員のすばらしい創造性を受け入れたなら、あとは成長し、何かを生み出すチャンスを与えればいい」
三 「どんな在り方をしているか」と「どんなやり方をしているか」の違いがわかるよう従業員を助ける。
「ビジョンを実現するということは、計略や戦略を駆使することではない。それは、自分の意志を決め、その意志をもって社会に接することだ」「現実とは、他人の働きかけではなく、自分の”在り方”によって決まるのである」
四 リーダーシップをとることは、自分自身を変えるための有効な手段である。
魚市場には「魚は頭(ヘッド)から腐る」という格言がある。「この魚屋のヘッドだったのは私(経営者)なので、周囲でいやな臭いがしたら、臭いの元は私ということになる。店によく起こる問題を、スタッフや他のビジネスの要因のせいにするのは簡単かもしれないが、実際にはわが社の企業文化をつくるのは私の態度なのだ」
五 従業員はやる気を失わせるような心のなかの内なる声、およびそういう他人との会話を排除できるよう協力する。
「人は誰しも自分の能力を活かすチャンスを逃すことがある。ただその気になれないとか、自分を変えるためにエネルギーを使いたくない気分になることがあるからだ」「無意識に出てくる消極的でやる気を失わせるような思考さえやめれば、あなたに成功をもたらし、変化を引き起こす力を燃え立たせ、ダイナミックで生産的な能力を発揮することができる」
六 従業員が、言い訳や非難をするためではなく、自分自身を変えるために、人の話に耳を傾けられるよう指導する。
「もし私(経営者)が従業員の話を積極的に聞かなければ、彼らが互いの話や客の話を聞く環境もつくれなくなってしまう」
「誰もが相手に心を許し、愛されていると感じているときには、自分の欠点を隠したり、他人のせいにしないことに気づいた」「人は安心できる環境のもとでは、よりビジョンに合った選択をするためにアドバイスを求めることや、喜んでその意見を受け入れ、自分を成長させるために活かすことにも気づいた」
「多くの人々が、話を聞いてもらいたいという強い欲求と希望を心に抱えたまま生きている。(略)パイク・プレイス魚市場の顧客サービスは何かと言えば、それは客の話を聞くとき、自分自身のことは忘れ、注意のすべてを客に向け、話を聞くという点に尽きる」
七 メンバーたちが、効果的な指導を通じて、お互いに自分のやるべきことを実現できるよう協力する。
「オーナーやマネージャーというのは、たいてい従業員が積極的に指導しあう職場環境を望んでいるが、そのためには、自分たち自身が心を開いて率直なコミュニケーションを心がける必要がある」
「命令するのではなく、提案し、推奨する。代わりの考え方や、在り方を検討するように勧める。自分自身をコントロールするように促す。指導とは、仲間の能力を高め、それを行動に結び付けられるようにしたいという強い責任感の表われなのである」
八 前進の障害になるものにぶつかったメンバーを助ける。
「二人の人間の争いは、たいていコミュニケーションの問題から起きている」
「私たちはときには自分の果たすべき役割に無関心になってしまうことがある。それを解決する鍵は、他人から何か言われたとき、すぐに自分のやるべきことに立ち返れるよう聞く耳を持つ、ということだ」
「規模の大小を問わず、どんなビジネスでも、収支に影響する問題に取り組むのはたいへん重要である」。こういう理由で売れないという思い込みをしている場合もある。「人は自分が間違っていることに気づくと、もっとすばらしい結果を生み出せるのだ」
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そして、3冊目、「大きな結果をもたらす小さな習慣」は、シカゴの大手製薬会社に勤め、前途洋々だったケイティーの話です。
ある日突然、ケイティーの夫が家を出て行きます。ケイティーは2人の子どもたちのために、理性を失わず離婚の手続きをとりますが、すぐに夫からの養育費は滞り、夫はケイティーの知人と再婚し、その女性の故郷のイタリアに引っ越したことが判明します。
ケイティーの心は荒廃し、職場の人に八つ当たりをするようになります。そして、約束されていた昇進は部下に変更、すみやかに立ち直らなければ解雇すると宣告されてしまいます。
そこで、ケイティは友人の紹介で、有名な心理学者、ドクター・アレンに電話し、プログラムに取り組むことになります。
プログラムは簡単な三段階のしかけからできていて、第一のしかけは「味方につける」。具体的には、次のようなことをします。
月曜 会社に着いたときから、世界一の幸せ者のような笑顔をくずさない。顔を合わせる人すべてに陽気に接し、感じのいい言葉をかける
水曜 部下に接したとき、微笑んでポジティブなことを言うだけでなく、同僚たちも引きつける。たとえば、調子はどうかと本気で尋ね、相手が答えたら、仕事の手をとめて積極的に耳を傾ける
その結果、これまでは、スタッフのほぼ全員がしかめ面か陰気な顔で、ぐちっていたのが、笑顔になり、精を出して働くようになりました。
次に、ケイティーは、第二のしかけ「感動させる」という課題を与えられます。
「あなたのために特別な努力をしてくれる人々を選び出し、彼らを評価することによって『感動させる』のだ。彼らが大いに気をよくして、またすぐ同じようにがんばるようにさせなければならない」というものです。
そこで、1日早く仕事をあげてくれた他部署の人の上司に感謝の手紙を書き、その上司の上司、社長、本人宛に手紙のコピーを送ります。
また、仕事の効率を高めるために、週末に配置替えをしてくれた部下4人のことを社長に報告、社長がわざわざ部署を見学に来ます。
しかし、ドクター・アレンへの、これらの報告の電話を元部下の上司、ショーンに聞かれ、部下たちに知られてしまいます。部下たちは「利用された」と怒ります。
けれども、ケイティーは、最初は装っていたものの、だんだん本気になったことを伝え、皆に詫び、部下たちとの絆が深まります。そして、ショーンとも和解します。
さらに、ケイティーはドクター・アレンに会い、プログラムの秘密、「人のことを気づかえば、彼らもお返しに気づかってくれる。それによって気分がよくなるだけでなく、実際によいことが起きるようになる」ということを聞きます。
そして、ケイティーは、このプログラムをショーンにも教え、ショーンも実行することで効果を上げます。
第三のしかけは「加速させつづける」。第二のしかけを、仕事を超えて、日常の当たり前にすることです。
これらの結果、ケイティーは昇格し、すべての部署でプログラムの三つのしかけを実行するようになり、そして、アレンと結婚することにもなったというストーリーです。
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これら3冊の本でわかるのは、人は「愛」を求めているということです。存在を認められたい。微笑みかけられ、気づかいの言葉をかけられたり、じっくりと話を聞いてもらいたい。また、特別な人として尊重されたい。賞賛されたり、意見を求められたり、ポジティブなことを言われたい。それらによって「良い気分」でいたいと、人は思っています。
また、自分がよりよくなるため、成長するために、信頼している人からアドバイスも受けたいと思っています。
しかしながら、自分のほうから人に愛を与えようという人は多くありません。
自分に愛をくれた人には、愛を返しても、まわりのそうでない人にまで、自ら進んで愛を与えようとする人は少ないでしょう。
故に「ザ・パワー」の、まず自分が「良い感情」をもち、自分から相手、まわりに「愛を与える」ことが重要になります。
ビジネスでも、経営者あるいは従業員から、従業員に、また、顧客に対して愛を与えることによって、状況が好転します。
パイク・プレイスでは、従業員が「良い感情」をもち、お客さんに気を配り、喜ばせる、すなわち自分から「愛」を与えた結果、お客さんも「良い感情」になり、「世界的に有名」な店になっていきました。
また、「フィッシュ!」のメアリー、「大きな結果をもたらす小さな習慣」のケイティーは、自ら従業員に「愛」を与えることにより、状況が好転したのです。
「愛が欲しければ、唯一の方法は愛を与えること」「人生において最大の喜びは『愛を与える』こと」という「ザ・パワー」の法則は、改めて、そのとおりだと思います。