経済について考える本(4)「中国の経済専門家たちが語るほんとうに危ない!中国経済」石平著

4冊目は、石 平氏の「中国の経済専門家たちが語るほんとうに危ない!中国経済」(海竜社/2010年9月発行)です。

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石氏は、1962年、中国四川省生まれ。北京大学卒。四川大学講師を経て、来日。神戸大学で博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。2007年、日本に帰化。拓殖大学客員教授という方です。

「たかじんのそこまで言って委員会」の昨年5月の番組を、半年遅れぐらいで放送しているのを観たときに、石氏が「なぜ中国人はルールを守らないのか?」を解説していてよくわかりました(理由 1.他人と社会に対する不信感、2.伝統的な公の意識の欠如、3.無秩序を楽しむ図太さ)。

また、石氏の「私はなぜ『中国』を捨てたのか」(ワック/2009年発行)を読むと、中国共産党のあり方などもわかります。
石氏は、共産党の思想教育、文化大革命、天安門事件などに幻滅し、日本で論語と儒教の心に出会ったことなどから、帰化しています。

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その石氏が、「中国国内の専門家たちの目を借りて、中国の内側から中国の経済の実態を見てみようと」したのが、この「中国の経済専門家たちが語るほんとうに危ない!中国経済」という本です。

同書によると「日本のマスコミや経済専門家の多くは今でも、中国経済のこうした危機的な状況をほとんど無視して相変わらずの『中国経済バラ色論』を展開しているが、中国国内の専門家たちの多くはきちんと見ている」
「結論からいえば、彼ら国内専門家たちが見たところの中国の経済成長はそもそも矛盾だらけのいびつな成長だったため、それが行き詰って破綻の結末を迎える以外にない、との一言に尽きる」とのことです。

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その中身ですが、まず、1章「『2008年危機』に見る中国の危うさ――中国経済の病巣は一体どこにあるのか?」では、2008年、リーマンショック後に中国経済が一時失速した理由についてふれられています。

それは、中国の経済成長を牽引する「2つのエンジン」である「対外輸出の継続的拡大」と「不動産投資を中心とする国内投資の継続的拡大」が減速したためと、多くの学者が見ているといいます。
そして、そういった「対外依存型」の成長になっているのは「内需不足」が原因であり、「内需と外需のアンバランス」「投資と消費のアンバランス」を合わせた「二重不均衡」が元凶だといいます。

この「内需不足」の原因は、貧富の極端な格差で、「中国の1%の富裕層に全国の富の40.4%が集中しており、中国共産党や政府、国有企業などで働く特権層への富の偏在が顕著になっている」一方で「中国の失業者は2億人」と言います。
さらに、社会保険システムの不備で、国民の85%が何の医療保険にも入っておらず、1回病院に行くだけで月給の3分の1が飛ぶため、貯蓄していることなども挙げられるとのことです。

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2章は「専門家が見た『中国経済回復』の実態とそのジレンマ――経済悪化の負の連鎖はどのように起きたか?」です。

中国政府は2008年秋から景気対策を行なっていますが、4兆元という巨大規模の計画に加えて、「銀行の融資制限撤廃」も行なっています。地方政府も続々と固定資産投資計画を発表し、その総費用は10兆元を超えていたといいます。

その結果、中国経済の「奇跡的な回復」がなされましたが、これはあくまでも人為的に作り出されたもので、経済自体の需要から生まれたものではなく、
資金の約半分は実体経済の回復とは無関係の株と不動産の投機に流れてしまった。残りの半分の資金にしても、そのほとんどが地方政府や国有大企業の担う大型建設プロジェクトに注ぎ込まれている」
「救済をもっとも必要とする中小企業の窮地がそのまま見過ごされ、(略)中小企業の4割が潰れてしまうという深刻な事態が生じてきた」ということです。
ちなみに、中小企業は、2009年時点で、全国の雇用の8割を生み出し、GDPの6割を占めているといいます。

3章は「2010年の中国経済、最大の試練と破綻の危機――経済と社会の両方を蝕む”中国病”の恐ろしさ」。

2009年に実施された景気対策で、危険性が高まっているのが「不動産バブルの崩壊」と「インフレ」だといいます。
「政府としてはいずれ、不動産市場の『調整』に着手しなければならない。が、調整に力を入れすぎると、不動産価格の急落と市場の委縮が避けられない」
「バブルはいったん崩壊してしまうと、社会保障制度が未整備で分厚い貧困者層が存在している中国では、経済的危機の発生と共に、深刻な社会的危機・政治的危機も生じてくるに違いない」

また「インフレの圧力が高まる中で、金融緩和政策からの転換(出口戦略)が必要となっているが、それを本当に実施してしまえば経済成長の鈍化は避けられないため、どうすればよいのかが深刻なジレンマになっている」ということです。

さらに、これまで、中国は「低賃金化成長戦略」を進めてきたが、内需不足と貧富の差の拡大を生んだため、そのツケを外資系企業に押し付けることにして、賃上げを求める労働争議を黙認したが、これは両刃の剣であるといいます。
賃上げはインフレの亢進に拍車をかけるとともに、「外資系企業の中国からの撤退を促し、国内企業の経営を圧迫して多くの中小企業を倒産に追い込」み、失業の拡大を生む可能性が高いからだといいます。

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4章は「専門家が見た不動産バブルの膨張と崩壊――不動産バブルが生み出した負の遺産『房奴』」。

2009年に中国で不動産を購入した人の約8割が、住むためではなく投資のためだったといいます。不動産市場が繁栄している理由は、インフレでお金の価値は下がっているのに、不動産は上がっているから、資産を増やすため一般人から超大型国有企業、地方政府まで莫大な資金をつぎこんでいるからだといいます。中小企業経営者も「企業を経営しても損するばかり。不動産投資が一番」と会社をたたんで投資しているといいます。

それ故、「不動産業は中国経済の支柱となり命脈となっている。今後においても、経済を持続的に成長させていくために、不動産業の安定した発展を図っていかなければならない」という不動産擁護論も出ているといいます。

一方で、夫婦2人の収入の3分の1から半分のローンを払い続ける「房奴(住宅の奴隷)」と呼ばれる人たちが増えているといいます。

5章は「重大局面を迎える中国の社会危機と政治危機――中国を崩壊へ導く複数の”時限爆弾”」。

2007年度の中国経済は、12.9%の成長率にも関わらず、大卒の就職率は政府の発表でも68%といいます。

そして、失業状態、半失業状態の大卒者たちは、暖房も浴室もトイレもない部屋に住み、「蟻族」と呼ばれています。
また、就職できた新社会人も、安月給のため、旧正月にも家に帰れない「恐帰族」となっているとのことです。

改革・開放が始まった30年前には、事業で成功して富を手に入れる機会は平等にあったが、現在は、権力と富は一部の「利権集団」に集中し、多くの若者からチャンスと夢が失われ、貧困の生活を強いられているといいます。

また、「一人っ子政策」の副作用で、若年層での男女比は120.56対100になっており、結婚できない「余剰男」が増えている問題、今の中国では、些細な出来事が暴動につながっており、民衆の不満が激しくなってきている問題などもあるようです。

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中国の経済状況をどう捉えるか、さまざまな見方があります。
とくに、「住宅バブル」と「インフレ」に関して、日本でもいろいろな研究機関等がレポートを出していますが、おおむね「問題はないだろう」という見方です。

住宅の価格は値上がりしているが、日本のバブル期や、アメリカのサブプライムローンのバブルとは違い、経済が成長しており、賃金も上がっているから問題はない。また、これまで、政府が引き締めと緩和を繰り返してきており、バブルの崩壊は起きない。
また、インフレも、やはり国が成長しているから、年3~5%の物価上昇なら問題ないだろうという見方です。

石氏が指摘している「内需不足である」ことに関しても、「国が豊かになり、人々の所得が増えてきているから、内需はこれから伸びるだろう」「不動産の需要の伸びこそ、内需の伸び」という見方です。

ちなみに、前回、著書を紹介した肖敏捷氏も「中国不動産バブルは崩壊しない」というコラムを日経ビジネスオンラインに書いています。
その理由は、やはり「過去10年間、不動産に関する引き締めと緩和は再三繰り返されてきたため」であり、「不動産バブルが崩壊しても短期的な調整に終わり、さらに大きなバブルが繰り返されるのである」ということです。

肖敏捷氏は、1998年に不動産業は「中国経済の支柱産業(牽引役)」に位置付けられ、「地方経済の”不動産依存症”をもたらした」。「不動産はここまで大きくなると、今度、主役の座から降ろすのも容易ではなさそうだ」。「中国の大都市では、富裕層はもちろん、一般人もこの(豪邸に住みたいという)願望が非常に強い」と書いています。

石平氏が、中国の成長は不動産に依存しているから危ないというのに対し、肖敏捷氏は、不動産に依存しているから、政府が介入し、バブル崩壊は起きないという考えです。

逆に、大前研一氏は、SAPIO 1/26号で、「悪いシナリオ」の1つとして、「中国発の危機」を挙げ、「最大の問題は不動産バブルだ」といっています。
「いま中国には空き室が8000万戸もあると言われている」「年収100万~200万円で、2億円の物件を買っている」「不動産バブルは、どこかで弾けざるを得ない」「中国政府は金融引き締めに政策転換したが、もはやソフトランディングはできないと思う」とあります。

日経の記事によると「中国国家統計局が(1月)17日発表した2010年の不動産開発投資額は、前年比33.2%増の4兆8267億元(約61兆円)だった」「10年12月の主要70都市の不動産販売価格は(略)4カ月連続でプラスとなった。中国政府は昨年春以降に不動産価格の抑制策を相次いで打ち出しているが、価格の上昇は止まっていない」とのことです。

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中国の現状は、石平氏のいうように「内需と外需のアンバランス」「投資と消費のアンバランス」を合わせた「二重不均衡」状態にある。また、不動産投資に一般人から超大型国有企業、地方政府まで、莫大な資金をつぎこんでいる。貧富の差も激しく、権力と富は一部の「利権集団」に集中し、「蟻族」「恐帰族」、その他の多くの人々が憤り、怒りを感じている。すなわち、さまざまな問題とジレンマを抱えていると思います。

しかしながら、だからといって、近々「破綻の結末を迎える」とは限りません。
それは、中国の政治体制が極めて”盤石”だからです。
それに関しても、次回、本を紹介したいと思います。

16日の日経の記事に、「中国、言論統制を広範に強化『文革以来の弾圧』の声」というのがあります。
「中国のメディアを監督する共産党中央宣伝部(中宣部)は政治・経済・社会問題の報道を厳しく制限する指示を国内メディアに通知した」ということで、その概要が書いてあります。

さらに、中国政府は昨年の7月より「国防動員法」、すなわち、有事の際には中国人及び中国で活動する外国企業とその従業員は、中国政府の指示に従わなければならない、保有する物品、資産を徴用できるという法律を施行し、「軍事闘争」すなわち「戦争」の準備に力を入れています。

その理由は、「当面、わが軍は軍事闘争準備の新しい歴史の起点に立っている。国際情勢とわが国の安全保障環境は深刻な変化を遂げ、国益の範囲は日々拡大し、安全保障問題の領域は広がり続けているからである」とのことです。

やり方の是非は別として、これが、盤石な体制をつくってきた中国政府のリーダーシップの取り方であり、国際社会に対しても、長期的な展望でさまざまな準備を用意周到に進めているところでしょう。