第14回 国際女性ビジネス会議(2)

2番目の講演は、日本電鍍(でんと)工業株式会社 代表取締役の伊藤麻美氏でした。

◆伊藤麻美氏講演「新しい発想と行動=喜び」

日本電鍍工業の「鍍」は鍍金(メッキ)の「鍍」で、日本電鍍工業は電気メッキ加工の会社です。

伊藤氏のプロフィールを拝見すると、幼稚園からインターナショナルスクールに通い、上智大学を卒業後、ラジオ、テレビのパーソナリティを経て、アメリカ留学、宝石の学校でデザインを学んだ後、帰国。2000年にお父さんの会社を継がれています。
どういう経緯で会社を継がれたのでしょうか?


          ◆ ◆ ◆

日本電鍍工業は、1958年に伊藤氏のお父さんが設立し、SEIKO、CITIZEN等、大手時計メーカーの指定工場となっています。伊藤氏によれば80年代が会社のピークだったといいます。
そして、会社の代表であるお父さんは、先を見越し、時計以外の業界からの受注も伸ばしていこうとしていた矢先、91年に急死。当時、会社は黒字で安泰だったため、20代前半だった伊藤氏は、とくに会社の経営に参画することもなく、パーソナリティの仕事を続け、やがてアメリカに留学したといいます。

それから9年後の2000年に、伊藤氏が会社を継ぐことになったのは、アメリカ留学中に、会社が危ないから日本に帰国するようにと連絡が入ったことがきっかけだといいます。
お父さんが存命中、優良企業だった会社は、次の代では先を見た経営を行なわず、10数億円の赤字を出していたといいます。

そういう状況の会社を継いだ伊藤氏は、「行動しないと何も起きない」と、いろいろなことに次々に手を打ち、3年で会社を黒字に戻しています。

伊藤氏は、「中小企業の社長は命をかけた勝負に入っている」「あきらめない。止まってしまえばそれまで。失敗しても続ければ成功に導ける」と語ります。また、「10年、20年、30年と、先を見ると人は財産」と言います。

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私は、最近、銀行の各地の店舗で経営相談をやっているため、いろいろな会社の経営者がいらっしゃいます。大変厳しい経営環境の下、あれをやってもダメ、これをやってもダメ、と疲弊された様子の経営者もいらっしゃいます。
そんなとき、私たちコンサルタントは経営者に、「決してあきらめず、続けていれば、必ずいいことがある」「あの手この手、あらゆることを考え、動き続けること」をお伝えするようにしています。
これは、気休めではなく、多くの経営者の方、とくに危機的状況から回復させた方たちが揃っておっしゃることです。
「あきらめない」「止まらない。動き続ける」「会社が存続していれば、回復はできる」。

寛斎氏が「一番のガソリンは心の中の決意」「考えられるすべてをやる」と仰っているように、経営者の決意、そして行動が会社の未来を創ると思います。

一般企業への就職経験もなかった伊藤氏が会社を復活させたのは、決してあきらめず、行動したからであり、これは会社経営に限らずあらゆることに通じると思います。

また、伊藤氏は、「人は財産」と言っていますが、最近、社員をコストとして捉えるだけでなく、わざわざ社員に「お前たちはコストだ」と言う経営者がいます。
後者の発言は、社員の「心の中の決意」を低め、モチベーションを下げるだけであり、こういう経営者も、株主から見ると、単なるコストに過ぎないでしょう。
社員をコストと考えるか、資産として考えるかで、接し方が変わり、「心の中の決意」が変わり、会社の将来が変わってくると思います。