ガザとイスラエル関連のNHKスペシャルを2つ見ました

杉原千畝記念館と国際刑事裁判所
杉原千畝記念館(左)と国際刑事裁判所

NHKオンデマンドで、9月28日に放送された「NHKスペシャル 祖父はユダヤ人を救った~ガザ攻撃と“命のビザ”~」と、10月6日に放送された「NHKスペシャル “正義”はどこに~ガザ攻撃1年 先鋭化するイスラエル~」を見ました。

せっかく救ったユダヤ人の国が虐殺を

まず、「祖父はユダヤ人を救った」は、イスラエルのガザ攻撃で、杉原千畝のビザ発給が問われているという話でした。

杉原千畝は、言わずと知れた、ナチス・ドイツに追われたユダヤ人に独断でビザを発給した外交官です。日本帰国後は、外務省からの辞職勧告で退職し、その死後に功績が認められました。

その孫、まどかさんに、SNSで、イスラエルのガザ攻撃で、残酷な行為をするユダヤ人を救うことになった杉原千畝の選択を残念に思うという声が届いていました。

せっかく命を救ったユダヤ人が作った国が、パレスチナで虐殺を行なっている。
それに対して、番組に出てきたユダヤ人サバイバーのガザ攻撃への見かたは2つ。
ひとつは、10月7日にいきなりハマスが攻めてきたので、反撃をするのは当然だというものです。

その考えを聞きながら、私は、この人たちは、なぜハマスの攻撃につながったのか、イスラエルの国の成り立ち(パレスチナ人の土地を武力で奪い取った=ナクバ)や、これまでのパレスチナ人に対する国際法違反、人権無視の施策を知らないのだろうかと思いました。あるいは、イスラエル政府やアメリカ政府のプロパガンダで、違う理解をしているのか?

もうひとつは、殺し合いは良くないという意見です。

どんな民族でも助ける

まどかさんは、杉原千畝がビザを発給した旧リトアニア領事館跡(杉原千畝記念館)や、救えなかったユダヤ人が連れて行かれたアウシュヴィッツ収容所跡(アウシュヴィッツ博物館)を訪れるなかで、杉原千畝の言葉を思い出します。

それは「ユダヤ人だから救ったのではなく、どんな民族でも助ける」というものです。
そして、「これ以上の戦争は終わりにしてください」という自らの考えに至ります。

番組を見ながら、今、この「即時停戦」「虐殺はやめて」という気持ちは世界で高まっているのに、その言葉を堂々と言いづらくなっているかもしれないとも感じました。

平時の同じ国民同士なら、「殺人」はどの国でも重罪です。
そして、仮にテロリストが潜んでいるとしても、そのマンションごと、街ごと破壊するなど許されません。

しかし、「虐殺はやめて」などの発言は、アメリカやドイツなどでは「反ユダヤ」思想だと決めつけられたり、日本では「政治や宗教にかかわるのは良くないよ」「危ない人だと思われちゃうよ」と言われたりもすると思いました。

「停戦=悪」と信じる人たち

次に、「“正義”はどこに」を見て、正直とんでもないなと感じました。

イスラエルの高校教師が登場し、ガザの情報を伝えたことで、教員免許をはく奪すると言われ、警察に拘留されたと語ります。釈放され、学校に行くと、今度は学生たちから教室に入るのを阻止され、罵詈雑言を浴びせられます。その動画が番組で紹介されます。

同僚からも「神の教えでは敵は消し去らなければならない。たとえ赤ん坊だとしても」というメッセージが送られてきます。

停戦を求める集会は取り締まられるだけでなく、国民からも非難の声が浴びせられます。停戦=悪、敵を消し去る=善なのです。

イスラエルの右派活動家は、国民の告発によりイスラエルに危害を与えるイベントを阻止しに行きます。たとえば「ガザの無実の子供を傷つけている」という主張のイベントなどですが、パネルを蹴るなど、暴力的です。

客観的な立場の自分からすると、抗議するイスラエルの人たちは、ガザで行なっている事実を知らないか、独自の解釈で理解していて、イスラエル政府のプロパガンダが功をなし、「大本営発表」だけを信じているように感じました。

国際法違反が堂々と行なわれる

番組は、ヨルダン川西岸の入植地にも行きます。
入植は、非合法に土地を奪う占領であり、国際法違反ですが、イスラエル政府によりどんどん進められています。

パレスチナ人の家がブルドーザーで破壊され、入植者がパレスチナ人を銃で撃ち、イスラエル兵が本来なら犯罪者である入植者を守るという、犯罪が堂々と映し出されていました。

さらに、イスラエルで「ガザの脅威を排除できる唯一の方法はユダヤ人による入植」と語る集会が開かれていました。
入植者でもある政治家は、あくまでも自分たちが善であり、正義であると主張します。

先の高校教師は「その考えから抜け出すのは難しい」と言います。
高校教師の同僚は「占領ではない。ユダ王国の時代から我々の土地だと授業で習った」と言い張ります。

一方で、パレスチナの青少年センター長は「世界中の人たちにイスラエルを止めてほしいのです」と語ります。

平和か暴力か、重要な分岐点

番組は、アメリカにも行きますが、アメリカの国連次席大使は、イスラエルは「自衛権」を行使しているだけで、国際的な正義や国際法を損なうとは考えていないと語ります。

さらに、オランダの国際刑事裁判所にも行きます。
国際刑事裁判所の主任検察官は、今年5月に、ハマスの指導者3人とともに、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相にも逮捕状を請求しています。

主任検察官は「私たちは西部開拓時代に生きているのか。銃を持っている人たちがやりたい放題できる。(略)これが私たちの望む世界なのか。これは今後数世代を決定づける重要な分岐点なのだ。平和を手に入れるのか、暴力に歯止めが効かない世界になるのか。世界の誰もが傍観者であってはならない」と語ります。

番組の最後は「力による支配が横行し、命が無残に奪われる不条理を世界は正すことができるのか。戦禍の中で人々はその希望を失いかけています」というナレーションの後、テント生活で疲れ切った人の声が流れます。

「“正義”はどこに」のイスラエルの人たちの言動には、プロパガンダの威力を感じ、救われない気持ちになりますが、国際刑事裁判所の主任検察官の言葉にはまさにそうだなと感じます。

逮捕状を阻止しようとアメリカ連邦下院が、国際刑事裁判所関係者への制裁を可能にする法案を6月に可決したりしていますが、平和と希望の方向に進むことを強く望みます。

(写真は、杉原千畝記念館と国際刑事裁判所。会員制フリー素材です)