人権って何だっけ?(6)企業と人権2

ロシアのウクライナ侵攻が続くなか、イスラエルとハマスの武力衝突も勃発しています。
一昨日(10/15)、イスラエルのネタニヤフ首相は、ハマスに対して「兵士たちは、怪物を根絶やしにする準備が出来ている」と言いました。
ハマスのメンバーも人間なので、人権はあるのですが、敵は人間扱いしないという歴史上繰り返されてきたことが続いています。
そして、それぞれの「正義」に基づく「報復」が「残酷非道」な行為や「人権侵害」につながり、それに対する「報復」という「正義」が新たな「残酷非道」な行為や「人権侵害」を生むというループになっています。

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さて、前回書いた、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年策定)に関して、2014年に国連は各国に行動計画(ビジネスと人権に関する国別行動計画=National Action Plan=NAP)を策定するよう求めています。
これに対して、2022年8月までに26か国が策定し、日本も、2020年に「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)を策定、公表しています。

国際的な視点を意識し策定

国連が各国に行動計画の策定を求めた2014年は、2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されることが決まった2013年の翌年でもあり、日本は、当然、オリンピック・パラリンピックも意識しています。

みずほフィナンシャルグループは、2017年に、オリンピック・パラリンピックの経済効果のレポートを出していますが、2020年には3600万~3700万人が来日し、約30兆円の経済効果につながると分析しています。

日本にとって、経済成長の大きなチャンスであり、社会的な課題も解決してよりよい未来につなげたい、そのひとつとして国際的に「人権」に関して求められていることにも対応したいと考えていたはずです。

2020年10月に日本の行動計画が発表された際、オリンピック・パラリンピックは翌年(2021年)に開催が延期されることが決まっており、行動計画のなかの「行動計画ができるまで」のところに、「オリンピック・パラリンピックを始めとする大型スポーツイベント、その他国際大会の開催にあたっても、『指導原則』の遵守を始めとする人権尊重が求められている。(後略)」という文が入っています。

オリンピック・パラリンピックは、コロナで、海外から多くの観客を呼んでの開催とはなりませんでしたが、国際的な「人権」という視点を意識するきっかけのひとつになったと思います。

行動計画の「基本的な考え方」と「分野別行動計画」の「横断的事項」

さて、日本の行動計画の「基本的な考え方」として、下記の5つが挙げられています。

  1. 政府、政府関連機関及び地方公共団体等の「ビジネスと人権」に関する理解促進と意識向上
  2. 企業の「ビジネスと人権」に関する理解促進と意識向上
  3. 社会全体の人権に関する理解促進と意識向上
  4. サプライチェーンにおける人権尊重を促進する仕組みの整備
  5. 救済メカニズムの整備及び改善

1~3のように、まずは「ビジネスと人権」もしくは「人権」に関して理解してもらう、意識を高めてもらうことからスタートしています。

「人権」という言葉は、ほとんどの人が聞いたことがあっても、自分の日常生活や仕事にどうかかわるのか、かかわらないのか、ピンと来にくいと思います。
しかし、「ハラスメント対策」などと、具体的に言ってもらうと、イメージはしやすくなります。

行動計画の「分野別行動計画」の「横断的事項」(次のアからカ)を見ると、イメージ出来ると思います。

 ア 労働(ディーセント・ワークの促進等)

 イ 子どもの権利の保護・促進

 ウ 新しい技術の発展に伴う人権

 エ 消費者の権利・役割

 オ 法の下の平等(障害者,女性,性的指向・性自認等)

 カ 外国人材の受入れ・共生

まず、「ディーセント・ワーク」ですが、これは直訳すると「まともな仕事」ですが、「働きがいのある人間らしい仕事」と表現されています。

日本が「労働」において今後やっていくこととして書かれているのは、女性活躍の推進にも貢献するワーク・ライフ・バランスの確保、ハラスメント対策の強化、外国人労働者・外国人技能実習生も含めた労働者の権利の保護・尊重などです。

ワーク・ライフ・バランスに関しては、以前ブログに書いたように、誤解も多く、否定的に捉える人もいますが、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」では、下記を目指すものです。

「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」

新しい技術の発展に伴う人権で、今後行なっていくこととしては、ヘイトスピーチを含むインターネット上の名誉棄損、プライバシー侵害等への対応、AIの利用と人権に関する議論、AIの利用とプライバシーの保護に関する議論の推進が挙げられています。

次回も「人権」に関して書きます。

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参考:

外務省 「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)の策定について