指導? それって、ロジハラかも?

ここ数年、個人的には、パワハラ防止に関わる研修、相談が増えています。
合わせて、パワハラ防止の一環でのメンタルヘルス研修(上の立場の人が分かっておいたほうがよい、部下と自分の心の健康管理=ラインケア)に関する問い合わせも増えています。

パワハラに関しては、パワハラ防止のための研修は以前から依頼があったのですが、パワハラを行なった人への個別の研修、相談が増えています。

経営環境として、2020年6月から「パワハラ防止法」が施工され、2022年4月から中小企業も対象になったので、企業としても、力を入れる必要があります。

一方で、先月発表された、厚生労働省の「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によれば、総合労働相談件数は高止まり(124万8368件)で、紛争の内容では「いじめ・嫌がらせ」が引き続き最多となっています。

この「総合労働相談」というのは、都道府県労働局など、全国379か所の相談コーナーで、専門の相談員が対応するもので、職場におけるトラブルを、個々の労働者が相談できます。相談内容によっては、労働局長による(職場への)助言・指導、紛争調整委員会によるあっせんも行なわれます。
この相談は、15年連続で、100万件を超えています。

内容の項目に「ハラスメント」はないので、ハラスメントは「いじめ・嫌がらせ」の中に含まれると思います。

ハラスメントは、上司や先輩、経験や知識が豊富な人など「優越的な関係を背景とした言動」ですが、いじめ・嫌がらせは、とくにそういった関係を背景としていない言動と言えます。

指導であり、パワハラではないという認識

さて、パワハラを行なった人への研修、相談では、「指導であり、パワハラではない」と言う人が少なくありません。

とくに、「怒鳴ったり、暴言を吐いたわけではない」と言う人の場合、「私がパワハラなんて、納得がいかない」と、怒りをぶつけられるケースが多々あります。

しかし、話を聞くと、いわゆる「ロジハラ」ではないかと感じます。ロジハラは、ロジカルハラスメントの略で、ロジカル(論理的)に相手を追い詰める、ハラスメントです。

たとえば、ある部下の目標達成率が90%だとすると、「あなたは、未達成です。10%足りていません」という言い方です。

「あなたが、いくら頑張った、努力したと思っていても、実際には、10%の未達成で、責任を果たしておらず、問題であると認識してください」

「何で達成できなかったのか、どう改善するのか? …… 即答できないのも問題です。今日中に報告してください」などと続きます。

どうしてこういう言い方になるのかは、次のような見解です。
「相手にとって耳が痛いことも言う必要がありますから」
「任せられた仕事には、責任を持ってもらう必要があり、10%の未達成でも、責任が果たされていないことを認識してほしいのです」
「私が言っていることは、厳しいのかもしれませんが、そもそも、そういうものですよね、仕事って」

一理あるかもしれませんが、このような発言を聞くと、この人は、これまでどんな環境で仕事をしてきたのだろうと思います。もしかしたら、厳しい環境で、一人で努力して、頑張って、成果を上げてきたのかもしれません。

けれども、上記のように言われると、「頑張るぞ」と元気になるよりも、落ち込む部下が多いのではないでしょうか?

そこで、私は、その上司に、一例として次のように言うこともあります。

「〇〇さん、ドラッカーが言っている、マネジメントの役割、マネジャーの仕事って、ご存じですか?」

「マネジメントの役割に『働く人を生かす』というのがあって、マネジャーの仕事に『動機付けとコミュニケーションを図る』『人材を開発する』というのがあるんですよ。つまり、部下を生かす、やる気をもってもらう、能力を開発するというのが、上司の重要な役割なのです」

「〇〇さんの言い方をさせていただくと、この責任を果たすことが、〇〇さんに課せられた任務だと、認識していただく必要があります」

「部下を詰めて、病気にすることが〇〇さんの仕事ではなく、やる気にする、育てることが〇〇さんの仕事、任務なのです」

部下がやる気が出る、上司の言い方

そして、おそらく下記のような言い方のほうが、やる気が出る部下は多いでしょう。

「うわ~っ、90%達成! あとたった10%だったのに、惜しい! いいとこまでいってる、あとちょっと! 次はいけるんじゃない。うん、〇〇さんならいけるよ! ずっと頑張っているから! 次で達成間違いなし! みんなで作戦練って、協力し合おうぜ!」

もっと言えば、先の上司にも、次のような言い方のほうがよいでしょう。

「〇〇さんの責任感、達成に対する使命感はよく分かります。しかし、部下が病気になり、〇〇さんは、パワハラと見なされる、残念な結果になっては元も子もありません。もっと〇〇さんの責任感、使命感が活かせる、よいやり方を一緒に考えましょう」

こういう言い方は、私のまわりの(元自社、他社の)「カリスマ上司」がよくしていました。

部下を認め、勇気づけ、励ます。そして、本当にスタッフ皆でいろいろな作戦を考えては、試してみる。協力し合って、チームとして、うまくいくようにするという方法は、いろいろな方法はもちろんあるなかで、なかなかいいなと思っていました。もちろん、業績は高いし、心理的安全性も高く、スタッフはいつも楽しそうでしたから。

こういう「カリスマ上司」は、関連する他部署、他社で、仕事が忙しい時に、差し入れを持って行ったりする心づかいもあり、「こういう上司になりたい」と思われていました。

パワハラ案件、ロジハラ案件の際に、思い出したりします。

相手が部下でも、他部署、他社の人でも、尊重し、思いやる、適切な言葉でコミュニケーションをすることは、今後ますます求められていくはずです。