「ワンヘルス(One Health)」など、世界は着々と動いているので、「すでに起こった未来」を見据えたほうがよい

この先、どうなっていくのか、なかなか予測ができない「VUCAの時代」と言われています。

けれども、かつてドラッカーが言った「すでに起こった未来」として、予測できることは多少なりともあると感じます。

つまり、すでに起こっていること=現在確認できる事実から、その延長線上での未来は考えられるということです。ちなみに、典型的な例として人口構造の例がよく挙げられます。

何か物事が起きたとき、急に起きたように見えることでも、ずいぶん前から動いていたことは多々あります。それも、秘密裏に進められていたわけではなく、行政が公開している資料などにしっかり書いてあり、報道もされていたのに、多くの人が気にもとめていなかったということだったりします。

ボーダーレスな施策は、決める側にいることが重要

前振りが長くなりましたが、この先、どうなっていくのか? ひとつの方向として、さまざまな分野における「ボーダーレス化」が進むと思います。

その例として、今後、恐らく重要になってくる施策として「ワンヘルス(One Health)」が挙げられます。

「ワンヘルス」は、WHOのサイトに、次のことが書かれています。

訳文「ワンヘルスは、人、動物、生態系の健康を持続的にバランスよく最適化することを目的とした、統合的で統一的なアプローチです」

「健康、食品、水、エネルギー、環境は、それぞれ分野特有の問題を抱えた幅広いテーマですが、分野や領域を超えた連携は、健康を守り、感染症の発生、抗菌剤耐性、食品安全などの健康課題に取り組み、生態系の健全性と完全性を促進することに貢献しています」

(原文はこちら

つまり、健康を切り口に、国家の垣根を超え、さまざまな分野、領域、たとえば、医師会、獣医師会のみならず、環境、食品、水、エネルギー分野を超え、連携して、統合一元的なアプローチ(integrated, unifying approach)を進めていきましょうというものです。

2004年にアメリカで、野生生物保護協会による「One World, One Health」という会議が行なわれたのが発端で、アメリカ獣医師会、アメリカ医師会、他で動きがあり、2008年にWHOが加わり、さらに、さまざまな世界の組織が加わり、日本では2016年に厚生労働省がシンポジウムを開くなどし、「ワンヘルス」は、進められています。

もともとは、鳥インフルエンザや、SARS、エボラの対策として、国や分野を超えて連携していきましょうというものだったのですが、コロナウイルスがコウモリから来ているのではということで、パンデミック対策を見据えたものにもなっています。

さまざまな垣根を越えて連携するのはよいことだと思われるかもしれません。確かにそういう側面はあります。けれども、国家を超え、分野を超えた「統合一元的なアプローチ」は、影響が大きいわけです。ある意味、国の法律、施策等も超えるわけですから。

必ず、決める側にいて、決めるプロセスに加わり、日本の個々の分野の立場や意見が十分に反映されるものにする必要があります。WHO等は国際機関なので、取り決め(条約)に賛成(批准)してしまうと、従う必要が出てくるので。

そういう意味では「ボーダーレス化」が、ボーダーレス資本主義による半ば強制を受け入れることにならないよう、気をつける必要があると思います。

次のパンデミックに備える動き

パンデミック関連でいうと、「パンデミック条約」の協議が進められていますし、「Project Next Gen(次世代ワクチン・プロジェクト)」や、「The Big Catch-up(史上最大の小児予防接種への取り組み)」も、WHOやゲイツ財団により進められています。チェルシー・クリントン(ビルとヒラリーの娘)も、「The Big Catch-up」への協力を表明しているとのことです。

ゲイツ財団は、ご存じのように、2019年に、ジョン・ホプキンス大学健康安全センター主催の「Event201」という、パンデミックが発生した場合のシミュレーションイベントを行なったり、それ以前から、パンデミック対策、ワクチン・プロジェクトに力を入れています。

恐らく「すでに起こった未来」を見据え、いち早く備えて、決定側に回っているのだと思いますが、世界がボーダーレス化するとき、この動きは重要だと思います。

日本の国も企業(組織、業界)も「すでに起こった未来」を見据えて、国際的な立場でのイニシアティブを取らないと、押し付けられる側になって、損な役回りを被ってしまう可能性が高いです。

ボーダーレス資本主義のみならず、独裁的な国家の動きに関しても、先手を打ったほうがよいと思います。独裁的な国家も、さまざまな資料を公表していて、「すでに起こった未来」は見えるので、気にとめて、動いたほうがよいと思います。とくに、長期的な展望を考えて動いているところに対しては、こちらもそうしないと、いろいろひっくり返される恐れがあります。