長崎大学リレー講座2011 第2回 有馬利男氏

リレー講座 第2回目のテーマは、「地球的課題への対応を問う」でしたが、より正確には「“企業の”地球的課題への対応を問う」という内容でした。
日本及び世界に山積みになっているさまざまな課題に対して、企業は何をなすべきか、そもそも企業とは社会にとってどういう存在で、どうあるべきかという話でした。

<セミナーデータ>
タイトル:長崎大学リレー講座2011 東日本大震災後の日本を考える
 第2回「地球的課題への対応を問う」
講師:有馬利男氏(富士ゼロックス相談役特別顧問、グローバル・コンパクト・ボード・ジャパン議長)
日時:2011年11月2日(水)18:00~19:30
場所:長崎大学
主催:長崎大学 共催:長崎新聞社
URL:http://www.nagasaki-u.ac.jp/relay-seminar/2011/


■有馬利男氏の講演内容

行き詰まりはチャンスでもある

日本が行き詰ってきているという、雑駁な感想をもっている。
高齢化やコモディティ化(消費者には、どのメーカーの商品もほぼ同じに感じられる状況)などの課題がある。農業などの一次産業も、本気で手を入れて、産業を作り直さなきゃいけないが、既得権益などで簡単にはいかない。

さまざまな問題は、他の先進国でも起きている。新興国も、先進国の後を追っているので、やがてへたってくるだろう。
しかし、日本で、先行的、先進的に起きている問題は、企業人からみると大きなチャンスでもある。

CSR(企業の社会的責任)の変化

CSRに対する考え方がだんだん変わってきている。

そもそも、企業の存在意義、企業が存在できる理由は、ステークホルダーズ(利害関係者)の期待に応えることによるが、ステークホルダーズは、お客様と株主だけではない。
従業員やサプライチェーンパートナー(製品の開発、製造、配送、販売などのパートナー)、社会、地球、将来世代・将来市場もステークホルダーズである。

これら、ステークホルダーズの期待と要求に応えられないと、企業は存続できない。
たとえば、大手メーカーのサプライチェーンパートナーが、児童労働をさせていたということがわかったら、そこの製品は輸入禁止になってしまう。

企業が収益を上げることにのみ邁進した結果、リーマン・ショックが起きた。
また、東日本大震災で、地域社会が失われれば企業は存続できない、企業のベースはやはり社会にある、と気がついた人がたくさんいる。
リーマン・ショックとTsunamiショックの2つがウェイク・アップコールになり、企業のCSRのとらえ方が変わりつつある。「払うべきコスト」という考え方から「経営の中核」という考え方へ移っていっている。

CSR 1.0.から3.0.へ

CSR 1.0.は、ビジネス視点のCSR。
CSR 2.0.は、社会視点のCSR。
CSR 3.0.が、新しい時代のCSRだが、どういったものだろうか?

CSR 3.0.を考える前に、ビジネスと統合するCSRということで、UNGC(国連グローバル・コンパクト)の歴史的背景を見よう。
UNGCは、2000年にアナン前国連事務総長の提唱により創設された。
その背景には、グローバリゼーションにより、企業の影響力が大きくなってきたことがある。
グローバリゼーションによる世界の成長と発展の一方で、大規模な環境破壊や、格差・差別・人権・労働問題が起こっている。これらの問題を解決するために、140カ国で、民間企業を中心とした8000組織、日本では、GC-JN(グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク)146組織が活動している。

次に、社会視点のCSRとして、JPF(ジャパン・プラットフォーム)の活動がある。
JPFは、NGO、政府、企業が、市民とともに、世界中の被災者向けに行なっている活動で、2010年度中、13プログラムで114支援事業を行なった。今年は、東日本の復興支援にも取り組んでいる。

CSRの3つの切り口として「事業統合」「社会貢献」「社会起業」がある。
「事業統合」は、事業そのものなので、CSRとしては当たり前だが、東日本の事業として「ITによるお年寄り見守りサービス」「地震保険金加速支給サービス」「戸籍情報電子化サービス」「BCP(事業継続計画)策定支援サービス」などがある。

また「社会起業」の事例としては「農業支援ファンド」「野菜工場コンソーシアム」「医療ドキュメントマネージメント」などがある。

CSR 3.0.は企業と日本の成長源

新しいCSRの位置づけは、CSRを日本の新しい成長力につなげるというものだ。CSRで、新しい価値を創出し、企業成長のモデルにする。また、コモディティ化した日本市場の再生を図る。
そのためには、CSRをボードルーム(役員会議室)にもってこなければいけない。CSRは単に広報、宣伝に役に立つレベルではダメで、企業とは本来何をすべきなのかという本質を議論するところから始め、ステークホルダーにきちんと説明し、納得してもらう必要がある。

これからの新しい企業のあり方として、「企業品質」は、「経済性」に加え、「社会性」と「人間性」でも、高いレベルを目指すべき。企業は、単に儲かることをやるのではなく、経営哲学が非常に大切だと思う。

ソーシャルビジネスは、すぐにリターンは来ないが、時間をかけて社会に役立つビジネスをつくっていけば、やがて、新しい事業の核になる。
(以上)

          ◆ ◆ ◆

これまでさまざまな企業をみてきて感じるのは、創業者が個人事業から大企業へと成長させた企業の場合、創業者は、経営手腕に加えて、確固とした信念、経営哲学をもっていることが多いということです。

その場合、社会起業家のように最初から信念をもって事業を始めた人よりも、会社が大きくなるにつれて、考えが変わっていった人が多い。すなわち、個人の利益から、お客様、従業員、取引先の利益、株主、地域、業界の利益、さらに、社会全体の利益、社会への貢献を意識するようになった人が多いということです。

経営者を取り巻く世界が広がり、物の見方、考え方のスケールが広がっていく、求められるレベルも高くなっていくというのもありますが、経営には危機がつきもので、単なるお金儲けだけでは、さまざまな壁を乗り越えられなくなる、信念がないと潰れるというのもあると思います。

影響が世界に及ぶ時代

しかしながら、企業経営が安定し、地位が確立すると、やがて創業者本人もしくは後継者が、自分の権力と利益を守る方向に向かう企業も出てきます。それは、かつての革命の勇者が、独裁者になるのと同じです。
あるいは、公器となった企業、公的組織で、公ではなく私の利益を守ることが一番の目的になるところも出てきます。

自分たちの利益しか考えない、そのために、すべきことをせず、してはいけないことをする。そうすると、遅かれ早かれ、その企業、組織は崩壊していきます。
そして、企業、組織が間違ったことを行なうと、地域、一国、さらに、今のようなグローバル社会では、世界中に影響が及びます。
まさに、グローバル社会のメリットとデメリット、光と影。良くも悪くも、本当に世界は狭くなったと、改めて感じます。