ペンと銃の分岐点 ガザとイスラエルの番組をさらに見て

昨日、さらに、NHKオンデマンドで

  • クローズアップ現代「広がる戦火 ガザ衝突1年 不信と憎悪の果てに」(10月7日放送)
  • NHKスペシャル「If I must die ガザ 絶望から生まれた詩」(10月13日放送)

も見ました。

銃で平和が訪れるという女性

クローズアップ現代では、「自衛」を掲げて過激化するイスラエル国民を取材していました。

印象的だったのは、入植地(占領地)に暮らす、イスラエル人のシニア世代の女性。
バッグに銃を入れ持ち歩いていて、「アラブ人を見かけるとユダヤ人は不安を感じる」「ここには銃を持って備えている人が大勢います。誰にも頼らず私たちが強くなるのです。そうすれば平和が訪れるでしょう」と言います。

イスラエルの銃免許の申請数は、10月7日以降、1か月だけで、過去20年分に相当する23万6000件以上ということでした。

備えるだけでなく、自ら襲撃に行く人たちも増え、パレスチナ人の家に火をつけたり、銃で撃ったりする(死者も出ている)、入植者による暴力行為は1年で1423件とのことです。

人権団体の人は「入植者たちは、10月7日以降、それを大義名分にして、暴力を働いても許されると思っているのです」と言います。

実際、国際法違反の入植(占領)を政府が進め、犯罪者であるはずの入植者をイスラエル兵が守っている状態です。

武器はペンだけですという詩人

一方、「絶望から生まれた詩」は、ガザの大学の先生で詩人が遺した詩と、その人(リフアト・アライール氏)について紹介していました。
この人の詩が、70以上の言語に翻訳され、世界中で取り上げられているということです。

「もし私が死ななければならないのなら
あなたは生きなければならない
私の物語を伝えるために ……」という詩です(写真は英文)。

全文訳(クリック)

もし私が死ななければならないのなら
あなたは生きなければならない
私の物語を伝えるために
私の遺品を売るために
一枚の布と
糸を買うために
(白くて尾の長いものを)
ガザのどこかの子供が
天を見つめながら
炎に包まれながら去っていった父親を待っている
誰にも別れを告げず
自分の肉体にさえも
自分自身にさえ–
あなたが作った私の凧が上空を舞っているのを見て
天使がそこにいると一瞬思う
愛を取り戻す
もし私が死ななければならないのなら
希望をもたらす
それが物語になるように

リフアト・アライール

リフアトさんは、昨年12月にイスラエル軍の空爆で亡くなりましたが、生前、「私は学者で、家にある武器はペンだけです」と言い、犠牲になっているパレスチナ人は、「〇〇人が死亡、〇〇人が負傷」という「数字」ではなく、一人ひとりに「物語」があると言っていました。

さらに、授業では、「ヴェニスの商人」で強欲な金貸しのユダヤ人として登場するシャイロックについて、不当な扱いを受けるユダヤ教徒という視点に変えると、パレスチナ人も親近感を持てることを教えたりしています。

アメリカに住むユダヤ人の女性とも交流があり、それぞれの娘がいつか自由になったパレスチナで会えることを願っていましたが、リフアトさんの娘もイスラエル軍の空爆で亡くなってしまいました。

私たちも同じ人間だと訴えるガザの女性

イスラエル政府、軍、右派の国民は、自分たちは選ばれた人間であり、パレスチナ人をはじめとしたアラブ人は人間ではないと捉えているようです。かつてナチスドイツがユダヤ人を、人間ではなく「物」として扱ったことと重なります。

そして、イスラエル右派にとっての「自衛」は、自分がやられる前に相手をやること、敵や敵となりそうなもの(子供含む)、敵に加担する間違った国民はすべて武器で消し去ることなのです。

(私が、イスラエル右派と書いているのは、イスラエルには、少数派ではあっても、政府のあり方を批判的に見ているアラブ人、ユダヤ人もいるからです。イスラエルの中道左派の新聞「ハアレツ」を購読していますが、大本営発表ではない事実を正確に取材して伝える姿勢、それ故にパレスチナ側に立った記事、俯瞰的な視点からの政府への批判記事も多く、信頼できます)

パレスチナの詩人は、自分たちは人間であり、ユダヤ人も人間である。一人ひとりに「物語」があることを伝えていました。

今日Xにあがっていたガザの女性の次の投稿(動画)は、ガザにおける不条理を現わしています。
「(略)私たちは人間なのよ。本当に皆と同じ人間で、同じ肉体だよ。皆は火傷したらどうなる? 私たちも同じつくりだよ。全く同じなの。(略)ただどうやって殺されるのかを考えながら死ぬのを待ってる。(略)人がボロボロになって今日なんて目の前で焼き殺された。(略)本当に本当に疲れたの」

ガザ、西岸での虐殺を継続し、レバノンまで拡大するイスラエル政府。イスラエル政府に武器を送り続け、虐殺の推進力となっているアメリカ政府。アメリカ政府に従う日本政府。

昨日のブログで書いた、国際刑事裁判所の主任検察官の言葉、「平和を手に入れるのか、暴力に歯止めが効かない世界になるのか」の分岐点、ペンと銃の分岐点だとしみじみ感じます。

(写真は、リフアトさんの詩と、詩に出てくる凧をイメージしたものです)