人権って何だっけ?(5)企業と人権
企業と人権、ビジネスと人権の考えが出てきたのは、1990年代です。
企業活動がグローバル化するなかで、海外の委託先の工場での児童労働や強制労働が問題になってきたためです。
そのため、国連は、2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を策定しています。
この中身は、次の3つの柱から構成されています。
- 人権を保護する国家の義務
- 人権を尊重する企業の責任
- 救済へのアクセス
このなかで、企業に求められていることは、以下です。
- 企業活動を通じて人権に悪影響を引き起こすこと、及びこれを助長することを回避し、影響が出た場合は対処する
- 企業がその影響を助長していない場合であっても、取引関係によって企業の活動、商品又はサービスと直接関連する人権への悪影響を予防又は軽減するように努める
「全ての企業に、その規模、業種、所在地、所有者及び組織構造に関係なく適用される」と書いてあります。
そして、「国際人権章典」や「労働における基本的原則と権利に関するILO宣言」(1998年)を尊重することとあります。
「国際人権章典」というのは、「世界人権宣言」「国際人権規約」(2つ)、議定書(2つ)の総称で、日本は、議定書以外は批准しています。また、日本はILO(国際労働機関)の加盟国です。
企業は人権侵害を防止し、対処すること
企業は、人権尊重の責任を果たすため、次のことをするべきとも書かれています。
- 人権方針の策定
- 人権デュー・ディリジェンスの実施
- 救済メカニズムの構築
「人権デュー・ディリジェンス」の「デュー・ディリジェンス(Due Diligence)」は、注意義務というような意味です。
「人権デュー・ディリジェンス」は具体的には、先ほど挙げた「企業活動を通じて人権に悪影響を引き起こすこと」を特定し、予防、検証し、リスクがある場合は対処を公表します。
すなわち、企業がやるべきことは、何が「人権侵害」になるのかを理解して、防止する。法令順守し、社内はもとよりステークホルダー(利害関係者)に対して、人権が守られているかモニタリングし、「人権侵害」があったら対処すること、情報をオープンにすることです。
労働に関する、最低限守られるべき条約
ちなみに、ILOは、「国際労働基準」として、190の条約と206の勧告、6つの議定書を出しています(2022年現在)。
「労働における基本的原則と権利に関するILO宣言」では、下記の4分野8つ(2022年に追加され5分野10個)の条約は、たとえ批准していなくても、推進に向けて務めるべきと書かれています。
これらは、「中核的労働基準5分野10条約」と呼ばれ、最低限順守されるべき条約とILOは位置づけています。
- 結社の自由及び団体交渉権の効果的な承認
結社の自由及び団結権保護に関する条約=第87号、団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約=第98号
- 強制労働の廃止
強制労働に関する条約=第29号、強制労働廃止に関する条約=第105号
- 児童労働の撤廃
就業が認められるための最低年齢に関する条約=第138号、最悪の形態の児童労働条約=第182号
- 雇用及び職業における差別の排除
同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約=第100号、雇用及び職業についての差別待遇に関する条約=第111号
- 安全で健康的な労働環境
職業上の安全及び健康並びに作業環境に関する条約=第155号、職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関する条約=第187号
日本は、このうち「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約=第111号」と「職業上の安全及び健康並びに作業環境に関する条約=第155号」は批准していません(2023年6月現在)。
いずれも未批准の理由として、国の見解は「国内法制との整合性についてなお慎重な検討が必要である」とのことです。
次回は、企業が守るべき人権の中身についてさらに書きます。
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参考:
外務省 ビジネスと人権ポータルサイト
ILO(日本)
日本弁護士連合会 ビジネスと人権に関する取組