ムハマド・ユヌス氏来日記念セミナー

昨日、ムハマド・ユヌス氏のセミナーに行きました。
ユヌス氏の活動は、以前、ノーベル平和賞の受賞より前に、ドキュメンタリー番組で見て、この人は「企業家」として只者ではないと感じました。起業家精神にあふれ、ビジネスセンスがある、と感じたのです。
昨日のセミナーでも、世界的な大企業が赤字転落し、倒産もしているこの時代に、「ソーシャルビジネスは、(その継続のために)損失を計上してはいけない。目的ではないが、利益は上げるべき」という言葉と、それを実現していることが印象的でした。
また、「すべての個人は起業家である」というユヌス氏の言葉は、ベンチャー・リンクの事業コンセプトのひとつ「 ヒューマン・バリュー・イノベーター」を思い出させました。

<セミナーデータ>
タイトル:ノーベル平和賞受賞者 ムハマド・ユヌス氏来日記念セミナー
貧困のない世界を創る ~ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義~
講師:ムハマド・ユヌス氏(バングラデシュ グラミン銀行総裁)
対談:米倉誠一郎氏(一橋大学イノベーション研究センター長)
日時:2009年03月15日 (日) 15:30~17:30
場所:アカデミーヒルズ
主催:早川書房 特別協力:アカデミーヒルズ

<概要>
ユヌス氏は、貧困層に無担保で少額の融資を行なうグラミン銀行を設立し、小さなビジネスを起こさせ、経済的な自立を支援する「マイクロクレジット」という手法を考案。バングラデシュの貧困削減に貢献し、2006年度のノーベル平和賞を受賞しています。
さらに、「ソーシャル・ビジネス」を世界に拡げることを提唱。「ソーシャル・ビジネス」とは、ビジネスの目的を、利潤の追求、株主の利益の最大化におかず、社会的利益の最大化におくビジネス。社会貢献を、活動を持続できる収益を上げながら行なっていくところに、NPOやボランティアとは異なる可能性があり、注目が集まっています。

<ムハマド・ユヌス氏 プロフィール>
1940年、バングラデシュ・チッタゴン生まれ。チッタゴン・カレッジ、ダッカ大学を卒業後、チッタゴン・カレッジの経済学講師を経て、米ヴァンダービルト大学で経済学博士号を取得。
1972年に帰国後、政府経済局計画委員会副委員長、チッタゴン大学経済学部学部長を務めるが、1974年の大飢饉後に貧しい人々の窮状を目の当たりにして以来、その救済活動に目覚め、1983年にグラミン銀行を創設。マイクロクレジットに加えて、貧しい人々を支援するサービスを次々と開発。2006年にノーベル平和賞を受賞

<講演メモ>
グラミン銀行の活動に関して、事前に研究や計画をしていたわけではない。
1974年当時、私は、大学の経済学の教授で、アメリカから帰ってきたばかりだったが、バングラデシュでは、多くの人が飢えて死んでいっていた。後で分かったことだが、じつは食料はあったが、人々は買うお金がなかった。アメリカで学んだ理論が通じない現実があることが分かり、理論を捨て、現実を知ろうとした。

調査の結果、貧しい人たちは、少額を高利貸しから借りていることがわかり、驚いた。42人が合計で27ドルを借りて苦しんでいた。それなら自分の力で解決できると思った。私が27ドルを42人に渡せばいい。それで人が救われることが分かり、もっとやろうと思った。

銀行に、貧しい人たちにもお金を貸し付けるように頼み込んだが、断られ、驚いた。そこで、自分が保証人になることを提案した。検討すると言われて、2カ月後に同意してくれた。返済はうまくいった。ところが、銀行はもっと貸すのを渋りはじめた。そこで、自分が銀行を立ち上げようと思い、当局を説得して許可を下ろしてもらった。グラミン銀行は、いまはバングラデシュで最大の銀行になっている。借り手は800万人で、98%が女性。

手続きやルールはやりながら覚え、自分で決めた。従来型の銀行のやり方を学び、逆をやることにした。従来型の銀行は、金持ちの男性で担保のある人に貸し、銀行は都会にある。グラミン銀行は、貧乏な女性で担保のない人に貸し、銀行は田舎にある。グラミン銀行では、借り手の過去は聞かない。将来に興味がある。

グラミン銀行は、現在、ニューヨークでも営業している。ニューヨークでは、高度な銀行業務を行なっているが、隣人のための銀行業務はやっていない。それができることを示したかった。
ニューヨークでは、貧乏な人は、銀行からお金を借りられないどころか、口座も開けない。賃金の小切手を銀行で現金化できず、専門の業者に頼むしかなく、1000ドルの小切手が800ドル、750ドルになってしまう。ニューヨークのお客さんは全員女性。大きな銀行が不良債権で潰れていくかたわら、グラミン銀行は、100%回収できている。

◆ ◆ ◆

文字が読めないのは、本人の責任ではない。貧困は制度が作る、人工的に課されるもの。
グラミン銀行は、第2世代が出てきている。お金を借りた人たちの子供は、高等教育向けのローンで進学している。最初は30ドルの融資で事業をはじめた人の娘が医大に行き、医者になっている。

現在の金融危機を恐れるべきではない。変化を起こすチャンスだ。
人間はいろんな側面をもっているが、ビジネスの概念では、人間をつかみきれていない。
人間には利己的なところと無私のところがあり、コインの裏表。人は、社会の目標のためにお金を使うことができる。

グラミン銀行は、企業との共同事業も行なっている。
フランスの会社、ダノンとの共同事業、グラミン・ダノンは栄養不良の子供たちに、栄養素の入った安いヨーグルトを売っている。利益は上げず、次にまわしていく。
このヨーグルトで、たくさんの子供たちが栄養不良から抜け出すのが、企業の大きな喜び、スーパーハッピネスとなる。

フランスの水の会社、ヴェオリアとのグラミン・ヴェオリアウォーターカンパニーや、ドイツの栄養剤の会社、バスフや、フォルクスワーゲンとも共同事業を行なっている。フォルクスワーゲンには、村人たちに安くて、環境にもよく、多目的なエンジン(自家発電や船にも使える)の提供を依頼している。

世界中の企業は強力な技術を持っており、世界中のさまざまな問題のために使える。

<対談メモ>
ソーシャルビジネスは?
ソーシャルビジネスは、損失を計上してはいけない。利益を上げるべきだが、利益は目標にしない。利益は会社にとどめ、配当は支払わない。活動はビジネスとして考え、コスト、価格は低くし、目標(社会的な目標)は達成しないといけない。

グラミン銀行の金利は?
貸付金利は20%だが、単利。バングラデシュの市中の銀行は16.25%だが、複利
預金金利は、8.5~12%
住宅ローンは、8%
教育ローンは、教育を受けているあいだは0% 終わったら5%
物乞いの人への貸付金利 0%

日本人も口座は開設できるのか?
Yes

日本人は何を協力できるのか?
いろいろできる。独創的なアイデアを持ち込んでほしい。たとえば、IT、インターネット。個人の売り手と買い手をつなげるもの。(マイクロクレジットの借り手が)作ったカゴや服がインターネットで販売できるようになればいい。
また、暮らし、医療面、教育面もインターネットで改善される。携帯電話で資金の振り込みもできればいい。
ただし、これらは、商業上、実現可能なもので、回収できること。

ITのインフラは村にあるのか?
村に携帯電話を普及させるため、グラミン・フォーンという会社を作ったが、爆発的なビジネスになった。
グラミン銀行から融資を受けて、携帯電話を購入し、これを貸して使用料を得る「テレフォン・レディ」が400万人いる。電話でインターネットもできる。

グローバル資本主義を肯定するか?
Yes
理由は1つ。個人の能力を信じているから。自由市場で、個人の能力がフルに発揮できる環境をつくればいい。
いまの資本主義は完成していない。人間は、お金を生み出す機械ではない。社会を変えることができる。
資本主義での人間の解釈を変えればいい。それこそソーシャルビジネスで問題は解決できる。
企業は、利潤の極大化だけを追い求めているが、これは手段でしかない。目的ではない。
目的は世界を変えること、まともな世界を作ること。
1人のリーダーが引っ張るのではなく、全員が小さなエンジンとして引っ張る。

政府にどうにかしてもらおうという考えは?
政府はやりたいことをやればいい。私たち個人は自分は能力がないと思っているが、創造力もエネルギーもある。
個人は自分でどんどんやれる。進める。効率がよい。政府などの組織は何かやるのに時間がかかる。
政府に依存する必要はない。

物乞いに融資するプログラムとは?
物乞いが物乞いするだけでなく、商品も持っていって、もし買ってくれそうなら売るというもの。オプションを広げる。融資を受け、商品を仕入れる。物乞いから商人になる。
すべての個人は起業家である。そういう才能をすべての人間がもっている。
物乞いに15ドルあげても変われない。だから、融資する。金利はない。責任を与えると、尊厳をもつ。

成長(growth)と開発(development)は違う?
数少ない人が延びるのが、成長。全員が引き上げられるのが、開発。小型の発電所がみんなについている。
失業者のためにお金を貸して、起業してもらう。自分で雇用をつくる、セルフ・エンプロイメント。自営業をやる。
しかし、いまの社会では、自営業の環境ができていない。自分で自分の面倒を見る、そういう制度がない。
自分の頭を使えば、いろんな自営業のアイデアが出てくるが、いまは、働くなら営利の企業で働くしかない。資本主義が狭くとらえられている。

<Q&A>
1)なぜちゃんと回収できるのか?
回収率は、98~99%で、不良債権は、0.5%。
しっかりした手続きがある。借り手の便宜に合わせたルールになっている。
3回返済できないと、延滞になるが、ペナルティはない。
まったく返済されないと問題なので、話をして毎週返す金額を下げ、長く払ってもらう。
リスケジュールして、引当金を高く積み立てる。返済しないと待つ。
利子は元本を超えてはいけないというルールなので、10年経っても10倍にならない。

2)なぜ挫けずにやれるのか?
解決策は必ずある。逃げ出してはいけない。トライする。あきらめない。突破口が見つかるまであきらめない。
つねに解決策を求める。新たに0から始める。1から立ち上げる。

3)日本では、安定した仕事を捨てて一歩踏み出すことは難しい。
グラミン銀行の教育ローンを借りて進学した若者が、「職が少ない。職を見つけてもらえないか?」とやってきた。そう、普通の人は職を探す。そこで、若者に、毎朝、鏡の前で次のように誓うように言った。「自分のミッションは他の人に仕事を与えること」。その若者の母親は、文盲でも、お金を借りて、商売を始めた。チャレンジした。学校を卒業しなくても、ビジネスは始められる。

すべては考え方次第。従来的な考え方だと、仕事があってハッピー、なくてアンハッピー。勤めている職場の外は地獄に見える。しかし、自営業は、好きなことができる。仕事として、24時間好きなことができるので、苦にならない。

4)チャリティとの違いは?
すべてが施しでなくてもいい。たとえば、災害が起きたらチャリティ。ある程度復興し、平常な暮らしに戻ってきたなら、ソーシャル・ビジネス。
永久に、チャリティを受ける側にいてはいけない。アメリカの福祉プログラムは、1ドル稼いだら、1ドル手当てを引かれる。福祉から抜け出せない。1ドル稼いだら1ドル加えるべき。
福祉は抜け出せるようにしないとだめ、そこで、ソーシャルビジネスが入る。

ソーシャルビジネスはお金がまわっていくが、チャリティのお金は戻らない。
人がパワフルなエンジンにかわることにより、チャリティ中毒から解放される。

◆ ◆ ◆

毎日食べ物を探すのは動物のやることで、人間はもっと大きな存在。地球のその他をどうやって改善したらいいのかを考えるべき。明日の食べ物を心配しなくてもいい世界を作りたい。貧困を半減したい。半減できたら、次の目標は貧困を0にしたい。そして、貧困が何かわからない人ばかりになったとき「貧困博物館」をつくりたい。