iPad登場後の出版社のデジタル戦略を考えるセミナー
<セミナーデータ>
タイトル:iPad登場後の出版社のデジタル戦略を考える
iPadにいち早く対応したコンデナストの真意と今後の展望
講師:田端信太郎氏(コンデナスト・デジタル カントリーマネージャー)
日時:2010年06月16日 (水) 19:00~21:00
場所:アカデミーヒルズ
URL:http://www.academyhills.com/school/detail/tqe2it00000c1knw.html
まず、コンデナスト社(コンデナスト・パブリケーションズ/Conde Nast Publications, Inc.)ですが、1909年にアメリカで創業した出版社で、「Vogue」「GQ」「Wired」など、数多くの雑誌を出版しています。100万部を超える雑誌も多い、大手名門出版社です。
コンデナスト・インターナショナル(Conde Nast International Ltd./1916年、イギリスに設立)が、アメリカ以外の世界24カ国、全126誌を統括しています。
日本には、コンデナスト・パブリケーションズの100%出資会社である、コンデナスト・パブリケーションズ・ジャパン(1997年設立/「VOGUE NIPPON」「VOGUE HOMMES JAPAN」を発行)と、コンデナスト・ジャパン(2002年設立/「GQ JAPAN」を発行)がありますが、iPadの日本発売(2010年5月28日)と同時に、これら3誌の電子雑誌アプリケーションを発売しました。
iPadの日本発売日に、私もiPadを入手しましたが、アプリケーションを販売する「App Store」のおすすめの中央に「GQ」が出てきて、目立っていました。
「iPadにいち早く対応した」出版社のマネージャーが「出版社のデジタル戦略」を語るというセミナーだったため、定員枠200名が拡大されたうえ、満席となっていました(参加者は約250名)。出版、広告関係者も多かったようです。
◆ ◆ ◆
セミナーは、ゲストである田端氏のお話、田端氏とモデレーターの神原弥奈子氏(株式会社ニューズ・ツー・ユー代表)との対談、質疑応答の3部構成でした。
主に田端氏のお話の部分をまとめました。
・「電子書籍」「電子出版」というテクノロジーの発展は、「グーテンベルクの活版印刷の発明」や「T型フォード登場」と同じで、その流れを止めることはできない。
iPad=印刷メディアのルネッサンス
Publish=Public≠出版(むしろ、Public=twitter)
電子雑誌のメリット
・取次・書店を通さなくてよい
・タイムラグなく情報発信可能
⇔月刊誌は3カ月前の企画、かつ、印刷したら1文字も変えられない
・電子化されることで、PDCAのサイクルを圧倒的に早められる
ログを見ながら、フィードバックできる。すぐ変えられる→失敗するコストが低い
・読者からのフィードバックデータを取得可能
電子化されることで、読者の直接の行動データが得られる
コンデナストやUSの雑誌ビジネスがiPadに熱心なわけ
コストがかからない(印刷費、配送費、返本)
動画が埋め込める
コンデナストの電子雑誌 今後の拡張予定機能
・EC連携で誌面から即購入
・twitter連携で閲読ページ共有
・窓埋め込みで誌上生放送
・クラウド連携でスクラップ機能
・ターゲティング/リッチ広告
・着せ替えコーデ機能 etc
iPad以降のメディアビジネスはどうなっていくのか?
・Data is King - Tim O’Reilly
ユーザーのデータをどれくらい持てるかがキモ
・境界線が溶けていく
媒体社/広告会社/PR/広告主
書籍/ムック/雑誌
アプリ/ウェブ
プロ/アマチュア
これまで
雑誌=紙
これから
・サービス&ビジネスモデル軸…雑誌、動画、会員サービス、物販、カスタム出版
・デバイス&タッチポイント軸…紙、PC、tablet、携帯、Digital TV
これからのメディア会社のあり方
マルチ「コンテンツ」×
マルチ「ビジネスモデル」×
マルチ「デバイス&タッチポイント」
・業界外、どこにライバルがいるか分からない空中戦だが、お金をかけずに失敗できる。
ボトルネックはお金ではない。適切な人とタイミング。センス、アイデア、能力(頭脳スポーツ)、ネットワーク、モチベーション
・マーケティングリサーチを行なうのは、成熟したものでないと意味がない。未来は読めない。
まずはライトに試してみる。さっさと始めてトライ&エラーでやり続けることが大切。
・Apple(iPad、iPhone)…読者(ユーザー)を囲い込み、課金もしっかりしているが、管理される。
その他、ネット媒体…自由だが荒野のようにハード
◆ ◆ ◆
お話を聞きながら、私は、1997年に立ち上げた「オンラインマガジン べんべん」を思い出して、懐かしくなりました。
「べんべん」は、インターネットの週刊誌ですが、それまで月刊誌(紙媒体)の仕事をやっていた編集スタッフにとって、読者からのレスポンスの速さ、多さは驚異的で、非常に励みになりました。「べんべん」は、毎週木曜日の午後4時にアップしていましたが、数分後のアップ途中でメールが送られてきたり、電話もかかってきて、「なんだかすごいなあ」と感じました。
当時、MPEG4の動画を載せたりしていましたが、34秒で120KB=33.6Kbpsのモデムで起動まで約29秒で、「重い」と言われていました。
「べんべん」の最大の課題は、どうやって売り上げにつなげるかでした。
多くの雑誌は、広告収入と雑誌の代金を収益源としていますが、インターネットでの課金は97年当時は、まだたいした広告収入は見込めず、読者からお金をとることも難しかったのです。
99年2月にiモードが登場したとき、その課金システムは魅力的でしたが、雑誌にはサイズが小さいと感じました。
「べんべん」の場合、どんどん増えていくアクセス数、現場の手応えに反して、インターネットのビジネス活用に対する懐疑的な見方は続きましたし、ビジネスモデル構築は簡単ではありませんでした。
あれから13年、出版社が電子媒体を発行するにあたってのビジネスモデル構築は、まだこれからだと思います。それ以前に、出版社は、黒船来航でしぶしぶ動かざるを得ない状況かもしれません。
いずれにしても、このセミナーを通じて、電子媒体の新しい可能性がいろいろ見えてきて参考になりました。