会社員と飲食店経営者の「手取り」について考える

飲食店も含めて消費税ゼロ?
前回のブログで、「食料品のみ消費税0%」は、外食企業に打撃を与えると書きました。
これに関連して、1月31日の朝日新聞に、高市首相が「飲食店も含めてゼロでいいじゃないかと日本維新の会もおっしゃっている」と発言したことが書かれています。
飲食店もゼロということは、売上分の消費税がゼロになり、輸出企業のように、仕入れ分の消費税が還付されるため、打撃ではなく応援になります。
けれども、私が調べた範囲では、維新が「飲食店もゼロで」と明言している情報はありませんでした。
そもそも、食料品0%自体が、国民会議で検討するとなっているので、あくまでも検討事項のひとつというニュアンスだと思います。
前回ブログのモデルはかなり頑張っているケース
さて、前回のブログのモデルケース「年商1100万円の個人経営の飲食店」に関して、外食関係の知人から「これって、ほぼワンオペだし、経費も抑えている。そのわりに売上を上げていて、ブログの写真のようなカフェで、ランチは出すけど、ディナーは出さないのなら、かなり頑張っているケース」という感想をもらいました。
そして、「そういうお店で、ワンオペ中心だったら、年商900万円ぐらいまでにしておいたほうがいい。もっと伸ばすのだったら、むしろ、夜(ディナー、お酒)にシフトし、人を雇って4000万円以上は売り上げないと」という意見でした。
この感想、意見はもっともで、個人で事業を行なう場合、まず「1000万円の壁」というのがあります。1000万円の壁は、業種によって異なりますが、消費税の納税義務に加えて、自分一人でどこまでやるのかということがあります。
飲食店で売上を上げようとすると、ワンオペでは限界がありますし、人を入れると利益率が一気に下がります。
では、飲食店の経営者(個人事業主)は、どれくらいの年商で、どれくらいの手取り(最終的に手元に残る金額)になるのか、会社員との比較で考えてみたいと思います。
会社が支払った7割弱が会社員の手取り
まず、日本の会社員(給与所得者)の年収(額面)の中央値は、約407万円(正規466万円、非正規178万円)ということです(2023年)。
この場合、手取りは、約310万~320万円(独身、扶養なし)です。
また、会社が、支払っている金額は、額面+社会保険料で、467万円となります。
つまり、会社が実際に支払っている分の66~69%(7割弱)が、会社員の手取りです。引かれている3割は、税(国・地方)6~7%、社会保険料23~25%です。
「社会保険料の引き下げ」を、維新、国民、参政、れいわ、チームみらいは言っていますが、会社が支払う4分の1が社会保険料なのは、さすがに高い割合ではないでしょうか?
外食の個人事業主の場合は?
それでは次に、外食の個人事業主が、会社員の中央値と同じ手取り(約310万~320万円)にするためには、いくら売り上げる必要があるか、考えてみましょう。
結論から言うと、現実的なラインで、年商1500万~1800万円です。
個人事業主が働き、通しのアルバイトが1人(2人頼んで曜日、時間別に分ける、忙しい時間に集中させるのもOK)。利益率は25~30%、簡易課税の場合。
事業所得が約420万~440万円になり、事業主の税、社会保険料100万~120万円を引くと、310万~320万円となります。
次に、年商900万円での手取りは?
ほぼワンオペで、ピーク時だけアルバイト1人に手伝ってもらい、利益率30%、免税の場合、事業所得が270万円になり、手取りは200万~210万円となります。
病気になれば収入はゼロになりますし、体力勝負ではありますが、会社員の中央値より100万円低く、非正規の中央値に近いです。
では、年商4000万円の場合はどうでしょう?
まずお店のイメージとしては、月25日営業で、客単価2000円で1日65人、客単価3500円で1日37人、客単価5000円で1日26人となり、ランチ・ディナー両方やっているか、専門店・居酒屋・小料理屋的な感じで、よくあるお店です。
正社員2~3人+アルバイト(シフト)、利益率20%の場合、事業所得が800万円で、手取りが424万円となります。
ワンオペではないので、病気になっても収入はゼロになりませんが、経営者として回していく必要があります。
ちなみに、手取り424万円の会社員は、額面だと550万円ぐらいになります。
年商1億円を超えると別の課題が
ところで、「日経レストランの調査によると、個人飲食店(黒字店)経営者の平均年収は631万円」という記事もあるのですが、「日経レストラン」は2016年に休刊していて、細かい部分はわかりません。
年収631万円だと、手取りは350万~380万円になり、これまでの数字を見ると、やはり年商3000万~4000万円クラスの経営者ということになります。
4000万円を超えると「1億円の壁」があります。
1億円以上の年商を出すには、飲食店の場合、1店舗では難しく、小型店で2~5店舗、従業員は20~50人(正社員2割+アルバイト8割)規模となります。
そうなると、「人」が一番の課題になります。
常に採用が必要ですし、店長やスタッフの質で、売上が変わり、トラブルも発生します。
この場合、「できる人に任せる」「できる人が頑張る」ことになりがちなのを「教育を標準化し、権限を分散させる」「誰が辞めても回るような仕組みにし、全体のレベルを上げる」ようにしたほうがよいと、外食関係の知人は言っています。
店舗別の売上、費用、キャッシュフローなどは、少なくとも月次で(感覚をあてにせず)数字を見る必要があり、廃棄ロス、設備トラブル、食中毒、クレーム、SNSでの評価、法令(労基署、保健所)などにも気をつけ、最初からきちんと手を打っておく必要があります。
ちなみに、年商1億円の場合、営業利益は1500万円が現実的ゾーン。オーナー報酬(=事業所得)は1000万~1200万円。残りは、内部留保、予備費、設備更新用にします。そして、事業所得1100万円の場合の手取りは約700万~750万円です。
法人化した場合、役員報酬を700万~900万円にして、利益を法人に残し、税率を分散すると、手取りは同程度かやや増えるぐらいです。けれども、事務、社会保険、管理コストは増え、節税よりも安定化が目的といえます。
1億円売り上げても、高リスク、高責任で、手取り700万円なのは、事業にやりがいを感じていないとできません。
10億円、50億円、100億円……
次は「10億円の壁」ですが、事業全体を回していく本部(本社)が必要で、スクラップアンドビルドなどのドラスティックな決断が求められることもあります。社会的責任が生じますし、M&Aで事業を手放す経営者もいます。
さらに「50億円の壁」「100億円の壁」もあり、もっと上もあります。
「50億円クラス」は、全国チェーン、もしくは複数ブランドで、成功した企業、「100億円クラス」は、インフラに近づき、影響力や社会的責任が大きくなります。
もっと上になると、インフラ、社会の一部、産業になってきます。
100億円クラスは、製造業なら、地域や特定分野では知られていても、一般消費者は社名を知らないこともありますが、飲食の場合は、単価が低く、関わる人(客、従業員、取引先等)が多いため、知名度、影響力は大きいです。
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ここまで見てきたように、年商の規模が変わるごとに、事業の性質や、経営者に求められる役割、責任は変わってきます。経営者は、「どんな目的のために、どこまでチャレンジする(したい)のか」を明らかにしておく必要があるでしょう。
会社員と個人事業主も、どちらが楽で、どちらが得かという話ではありません。
数字を並べてみると、それぞれの働き方に組み込まれている税や社会保険の制度で、どこに負担がかかっているのかも見えてきます。
私たちは、自分たちがよりよい働き方ができ、よりよい社会になるように、選挙などを通じて、税や社会保険の仕組みやさまざまな政策に対して、どうして欲しいのか、答えていったほうがいいと思います。

