チャイナ・プライス(中国価格)の意味するところが分かるセミナー

「中国貧困絶望工場」(日経BP社刊/原題「チャイナ・プライス」)という本の著者であるジャーナリスト、アレクサンドラ・ハーニー氏のセミナーに行きました。
「世界の工場」として発展を続ける中国、そして、世界が太刀打ちできない低価格「チャイナ・プライス」。
なぜこんなに安い値段で製品を作れるのか? ハーニー氏は、単に人件費が安いからだけではないと言います。

<セミナーデータ>
タイトル:チャイナ・プライス~潜入取材で見た中国の製造現場の裏側~
講師:アレクサンドラ・ハーニー氏(ジャーナリスト)
日時:2009年03月31日 (火) 19:00~20:30
場所:アカデミーヒルズ

<アレクサンドラ・ハーニー氏 プロフィール>
香港在住のアメリカ人ジャーナリスト。1997年、米プリンストン大学卒業、東京大学留学などを経て、98年フィナンシャルタイムズに入社。東京支局、香港支局特派員として主に製造業を担当。2007年にフィナンシャルタイムズ退社後、香港を拠点として中国本土で工場経営の実態を調査し、著書「チャイナ・プライス」(邦題「中国貧困絶望工場」)にまとめた。


ハーニー氏は、「チャイナ・プライス」が安い理由として、次の3点を挙げます。
 1)労働と環境保護の法律を守っていない
 2)健康や人権を犠牲にして働いている
 3)海外の企業からコストを下げるよう圧力をかけられている

労働に関して、じつは、中国の労働法はアメリカより厳しいそうですが、その法律を守りながら、ウォールマートなどの海外企業が求める価格で製品を提供することは不可能だといいます。中国政府には、出稼ぎ労働者を監視する人員が不足しているし、法律の適用免除もできるようです。
また、ウォールマートから視察に来ますが、これに対して視察用の工場を用意し、それとは別の裏工場で生産しているのが現状だといいます。

健康に関しては、労働者は健康診断を受けていないし、受けても本人には結果を伝えないといいます。
宝石を磨くときの粉で肺の病気になったり、出稼ぎ労働者がガンになっている「ガン村」というのがたくさんあるそうですが、予防策もとられず、病気になってもなかなか裁判にも持ち込めない。そもそも、出稼ぎ労働者は、問題意識がないとハーニー氏はいいます。出稼ぎ労働者は、経済的に豊かになりたい、携帯電話やPCがほしい、化粧品や時計がほしいと思っているため、違法な長時間労働も厭わないとのことです。また、中国では、貧乏な人でも10年前と比べて生活がよくなっているため、非常にポジティブに捉えているとのことでした。

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今や「世界の工場」の影響力は大きく、世界経済、日本経済と切り離しては考えられませんが、中国の環境、労働、食の安全などの問題は中国だけの問題ではなく、日本やアメリカ、ヨーロッパなどの海外企業が安い価格を要求しているために、引き起こされているといいます。

実際、中国の工場は儲かっているわけではなく、利益率は高くない、5%以下の工場も多いということです。
その理由は、競争相手が桁違いに多く、100社、200社とあるうえに、契約を履行できるかどうか考えずに受注するためだといいます。また、経済危機で工場は次々と倒産し、1200万人の出稼ぎ労働者が職を失ったとのことです。

さらに、沿岸部の工場では、徐々に労働者の権利の意識が高まっていて、労働訴訟も起こるようになり、低コスト工場が維持できなくなっているため、工場は、沿岸部から内陸、農村部へと移転しつつあり、工業汚染も内陸部に行ってしまう可能性が高いとハーニー氏は言います。
環境問題、食の安全、労働問題など、法律の執行がなかなかよくならないため、改善には時間がかかる、影の工場がなくなる可能性も低いとのことです。そして、これらには政府と政府の協力が必要で、日本から進めたほうがいいといいます。

なお、中国の消費も伸びており、消費者は、50代、60代は何も買わないけれども、20代、30代は毎日買い物をしているので、20代 30代をターゲットにしたほうがいいとのことでした。

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さて、このセミナーは、昨年11月に行なわれた「日経ビジネスイノベーションフォーラム 中小企業からはじまる、日本活性化プロジェクト『ビジネスチャンスは巨大中国市場にあり!』」とは、光と影の関係にあるように感じました(川嵜がまとめた「ビジネスチャンスは巨大中国市場にあり!」の記事を読む)。

フォーラムで、中国市場戦略研究所の徐 向東代表が仰っているように、中国の人たちの「豊かになりたい。もっといい生活をしたい」という気持ちが、中国の高成長の原動力になっていると同時に、一方で労働問題、環境問題等につながっているといえます。

ハーニー氏も仰ったように、中国の問題には、政府間の協力が必要だと感じます。日本を始めとした海外の政府は、中国政府を強力にサポートする必要があります。
日本政府は、「日中友好環境保全センター」が2008年3月まで、環境対策のサポートを行なっていますが、さらにさまざまな支援、協力を行なったほうがよいと思います。
中国の問題は、もはや中国だけの問題ではなく、世界の問題であり、先進国がかつて経験した公害問題などを繰り返すべきではない、そのための時間の猶予はないと思います。