長崎大学リレー講座2012 日本マクドナルド 原田泳幸社長

原田社長は、2004年に、アップルジャパン社長から、日本マクドナルドCEOに就任し、それまで7年連続既存店売上高マイナスだったのを、8年連続でプラスに変えた人物。今年は、1~9月期で2.2%減となり「原田マジックが効かない」とも言われています。長崎大学リレー講座での講演内容をレポートします。<セミナーデータ>
タイトル:長崎大学リレー講座2012 長崎からグローバルを考える
日本マクドナルドホールディングス株式会社
代表取締役会長兼社長兼CEO 原田泳幸氏
「グローバル時代に求められるもの~マクドナルドの改革より~」
日時:2012年11月16日(金)19:00~20:30
場所:長崎大学
主催:長崎大学 共催:長崎新聞社

■原田泳幸氏プロフィール
1948年、長崎県生まれ。東海大学工学部卒業。72年、エンジニアとして日本NCRに入社。その後、横河ヒューレット・パッカード、石油調査のシュルンベルジェグループを経て、90年アップルコンピュータジャパンへ。97年に同社代表取締役社長に就任し、米本社副社長を兼務。04年、日本マクドナルドホールディングスに代表取締役副会長兼CEOとして入社。現在、日本マクドナルドホールディングス株式会社 代表取締役会長兼社長兼CEO■原田氏の講演内容

グローバル企業といっても、すべて文化が違う。アメリカ東海岸、西海岸、シカゴ、ニューヨークでも違う。
マクドナルドは、アナログ人間がアナログ商品を扱っている「ピープルビジネス」。お客さんは常に衝動買い。0.5秒で判断する。

日本マクドナルドは、1971年にスタートした。
71年~創生期、77年~成長期、92年~低迷期と言える。低迷したのは、人材が育っていないのに、急速な店舗展開をしたことが歪みを生んだから。
私が就任した2004年~回復期。今年は9年目だが、大変厳しい。

売上を上げるのは簡単だが、それが、継続的な利益が伴う売上なのか、キャンペーンなど一過性の売上なのか、後者では意味がない。好調なときに、痛みの伴う改革を行なう必要がある。

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業績不振に陥った会社は、次の2つを忘れている。
「基本に戻る」「らしさを取り戻す(Back To The Basic With Innovative Manner)」こと。

Appleも、Appleらしさを失い、Appleらしさを取り戻した。Appleらしさは、操作性。やりたいことが簡単にできること。
マクドナルドも、ハンバーガーだけでなく、カレーやうどんを売ろうとしたことがあるが、基幹ビジネスが低迷しているときに、補完をやってもうまくいかない。

マクドナルドは、「基本に戻る」「らしさを取り戻す」「グローバリゼーション」「顧客価値の向上」の4つに関して、2004年から経営改革に取り組んだ。
改革を行なうと、誰かが幸福になり誰かが不幸になるが、行なわないと皆が不幸になる。
改革は、有限の経営資源の配分を変えること。優先順位がある。

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マクドナルドの競争力は、「バリューフォーマネー(お得感)」と「スーパーコンビニエンス(利便性)」の2つ。

「成長のためのシーケース(sequence=順番)の策定」で一番の基本になるのは、「QSC&メイドフォー・ユー」(Quality:品質 Service:サービス Cleanliness:清潔さ)。次に「バリュー」(100円メニュー)。そして「新メニュー」(エビ、サラダ、ピタ)「価格改定」「24時間営業」「メガマック、マックリドル」と続く。

「QSC&メイドフォー・ユー」は常に基本。上達すればするほど、基本をもっとやらなければ、上達しない。ゴルフでも、ストレートボールがちゃんと打てるようにすること。打てないのに、それ以外にいろいろ打って、道具のせいにしている。

1997年から2003年まで、既存店売上高の対前年比は、7年連続マイナスで、-28%だったのが、2004年から2011年まで、8年連続プラスで、+37%となった。今年は、あえてマイナスにしても、やることをやっているが、「勝利の方程式が崩れた」などと叩かれる。叩かれると元気が出るのでいい。

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8年間でやってきた戦略はたくさんあるが、そのなかで次の3つについて話したい。
「価格戦略」「店舗開発改革」「人事制度改革」

「価格戦略」は、過去8年で6回の値上げを行なった。
価値を高めて値上げした。「できたて」「スピード」「利便性」
また、これまでは、地方で儲けて、東京で損する仕組みになっていたので、「ロケーションもお客さんの価値」ととらえて「地域別価格」を導入した。東京の値段を高くした。

牛丼店は値段を下げる価格戦争をして、低迷している。
値下げをすると、お客さんの価値認識が変わってくる。

価格を決めるとき、コスト、利益だけでなく、お客さんの購買パターンなど、全体を見て決めている。
1人のお客さんが1月にいくら購買するのか、来店頻度と利用率など、どこかで損することのないように考えている。
コモディティ(差がない商品)であるコーヒーを売るのは、来店頻度を上げてもらって、独自メニューであるビッグマックを売るためだ。

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「店舗開発改革」に関しては、「戦略的閉店」を433店舗行なった。成長のスピードを上げることが目的だ。

マクドナルドの店舗には、「ストア フロント」「従来型ドライブスルー」「大型ドライブスルー」があるが、大型ドライブスルーの優位性が高い。

「戦略的閉店」は、店舗ブランドイメージに合わない店、たとえば、キッズ&ファミリーのイメージと異なる歌舞伎町店などは閉店した。

ブランドエクステンションとして「McCafe」「マックデリバリーシステム」「デザートキオスク」などのタイプも導入している。

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「人事制度改革」は、人材への投資を行ない、クルーの定着率向上に力を入れている。
ES(従業員満足度)が上がると、TO(離職率)が下がり、CSO(顧客満足度)が上がる。
いいクルーは、「報酬」ではなく、「成功体験」と「自己成長」で育つ。クルーの教育に力を入れ、クルーがいる部屋の内装にも力を入れている。マニュアルも、スピードに対応するよう、任天堂DSを使っている。

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IT企業は「Think Global  Act Global」。世界で売れないものはやらない。
マクドナルドは食で、地域によって、文化が違うので「Think Global Act Local」。
「Think US Act Local」の会社には、RCA、Fairchild、Ford、GMなどがあるが、失敗している。
日本のベンチャー企業は、「Think Japan Act Local」だ。

世界のルールで戦うが、文化の違いを知ってコミュニケーションをとることが必要。日本の文化を知り、世界の文化を知ることだ。

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以下は、提言だ。
・強みをさらに伸ばすこと。
日本人は、弱いところにはすぐ目が行くが、強さを説明できない。

・リサーチで企画を立てるな。
自分が信じるものをつくり、新しい価値を生み出すことだ。

・要領のいい世渡りをするな。人間社会の基本は、価値を生み、対価を得ること。

・成功しないことが当たりまえ。上司は失敗と言ってはいけない。プロセスと思わないといけない。成功するまでナビゲーションすること。

若い人は、知識がたくさんあるが、もっと仕事に知識を使わなきゃいけない。知識はツールに過ぎない。

私は、日本人で他の国で活躍する若者を輩出したい。後継者をつくりたい。画一的な人材は要らない。ダイバーシティは、チームビルディングは大変だが、競争力が上がる。
海外に住むのがおすすめ。違う空気を吸い、外から日本を見ないとわからない。海外には、失敗してもまたやる、失敗したと思わない風土がある。

(以上)

          ◆ ◆ ◆

お話を伺いながら、ドラッカーの本のようだと感じました。すなわち、原理原則に則った経営だと感じたのです。
多くの経営者のお話を聞いていると、現場で基本どおりではないと感じ、いったん基本から離れ、あれこれ試行錯誤した結果、基本に戻ってきている。頭で理解した基本ではなく、体験を経てたどり着いた基本に忠実な方が、帰結として、成功につながっているのではないかと思います。

今回、誰も質問しなかった、メニューをなくした件。この意図はよくわかります。カウンターでメニューを見て決めると、スピードが遅くなり、列になるからですが、その意図がお客さんはもとより、クルーにもほとんど伝わっていなかったように感じます。
こういう大きな変更は、CMで意図を伝えるべきだったし、もっと徹底させたほうがよかったのに、そんなことは当然わかりきっているはずなのに、しなかった意図を聞きたかったですね。

会場で売られていた2冊の本。1冊は読んでしまいましたが、やはり原理原則に則っている経営がよくわかり、面白かったです。

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■セミナーレポート
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