長崎大学リレー講座2014 西本智実氏

「長崎大学リレー講座2014」第2回目は、イルミナート芸術監督・首席指揮者の西本智実氏。平戸・生月島の隠れキリシタンが音だけで、450年以上も伝承してきた不思議な歌「オラショ(ラテン語で祈り)」を、昨年、ヴァチカンで復元演奏されています。

<セミナーデータ>
タイトル:長崎大学リレー講座2014 グローバルに活躍する力
第2回 イルミナート芸術監督・首席指揮者等 西本智実氏「世紀を超えた“オラショ”(祈り)~文化力の可能性~」
日 時:2014年10月15日(水)19:00~20:30
場 所:長崎大学
主 催:長崎大学 共催:長崎新聞社

■西本智実氏の講演内容

母も伯母も音大卒で、子供の頃から音楽に触れていた。著名なクラシックの演奏会にも、いろいろ連れて行ってもらった。子供でも感動する。

音大を卒業して、26歳でサンクトペテルブルク音楽院に入学。
ロシアは、金融危機で、素晴らしいプレイヤーがいなくなり、私にチャンスが巡って来た。チャンスはいつ来るかわからないので、大学からずっと準備はしてきた。

いつプロになったかといえば、お金をもらうようになったときだろうが、子供のときからずっとスタートしている。

仕事は、ロシアから東欧圏、中欧、西欧、アメリカ、アジアの順番でやってきた。最初から24カ国で仕事をするつもりはなく、必要にかられてやってきた結果。
ぐるっとまわって日本に戻ると、日本にはユーラシア大陸からいろんな文化が入ってきて、集約されている気がした。

「オラショ」をヴァチカンで

2007年、大西洋からアメリカに行くとき、なぜ自分が音楽を志したのか、なぜここにいるのか、自分のルーツを知りたいと思っていた。そうしたら、長崎講演があり、次の日がオフだったので、平戸の生月島に行ってみた。
祖父から、祖父の母が生月の出身であることと、生月に伝わる不思議な歌、「オラショ」の話を聞いていたためだ。

オラショとはラテン語で祈りのことで、博物館にその音楽が流れていたが、約450年前(今年で456年)のグレゴリオ聖歌が、音だけの伝承で、ラテン語でパーフェクトに残っていた。感動を超えて、衝撃だった。

昨年、ヴァチカンから私を招聘したいと言われたとき、オラショの3曲をこちらからリクエストした。あまりにも古い歌で、ミサで歌うので、厳密な調査がなされたが、不思議な力で、歌うことができた。信念をもって伝えてきた人たちの力が働いたのだろう。
反響は大きく、ヴァチカンの評価も高く、今年も再招聘された。

無形のものは、建物などと違って、受け継がないと一瞬でなくなる。使命感をもって、なんとしても知らせたかった。
私は、年表に残っていないことをよみがえらせる仕事をしていきたい。私自身も生きているというリアルな感覚がある。それが私の役割という気がする。

女性の指揮者は少ない。1%もいない。けれども、いないから難しいとは思わなかった。やろうと思ったからやっている。
音楽の世界は、訓練、訓練で、1日練習しないと自分にわかる。しかし、それぞれのメンバーが自分の能力を発揮し、皆で一体となって奏でる姿は本当に美しく、輝いている。

(以上)
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お話を聞きながら、隠れキリシタンがそのまま伝えてきた「オラショ」が、ヴァチカンで歌われるのは、何とも不思議なめぐり合わせだなと感じました。

そして、自分という単体の力を超えた大きな力のなかで、自分の役割を考えることや、自分の一生という期間を超えた遠い先まで伝えていくという発想は、慌ただしい日々のなかでは忘れがちではありますが、大切な視点だと思いました。

さらに、私たちもいま歴史を創っていて、私たち一人ひとりが、今日踏み出した小さな一歩がやがて歴史になるというのも面白いと感じます。