経済について考える本(2-前半)「日本を破滅から救うための経済学」野口悠紀雄著

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2冊目の本は、野口悠紀雄氏の「日本を破滅から救うための経済学 再活性化に向けて、いまなすべきこと」(ダイヤモンド社/2010年7月発行)です。

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帯に「消費税だけでは30%近い税率でも財政再建できない!」以下、次の5つの●が書いてあり、「俗説を次々とくつがえす!野口教授の最新日本経済論」となっています。
 ●デフレスパイラル論はまったくの間違い
 ●インフレこそが最も過酷な税である
 ●厚生年金は2033年頃に破綻する
 ●1ドル=60円台後半も不思議ではない
 ●教育こそ最も重要な成長戦略

この5つの●のうち、2つ目の「●インフレ~」と5つ目の「●教育~」は確かにそうに違いない、3つ目の「●厚生年金~」、4つ目の「●1ドル~」はもしかしたらそうかもしれないと思うものの、最初の「●デフレ~」には疑問を感じる方も多いと思います。
そこで、今回は、この部分を取り上げ、次回、残りにふれたいと思います。

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同書は7章から構成されていますが、第1章「『デフレが停滞の原因』という邪教から目覚めよう」と、第2章「いまこそ必要なデフレの経済学」に、このデフレスパイラル論が誤りであることが書かれています。

おおよそポピュラーになっている「デフレのために日本経済が活性化できず、そこからの脱却のために金融緩和が必要である」という説はなぜ誤りなのか?

まず、デフレは「すべての物価が一様に下落する現象を指す」が、今の「価格下落は一様ではな」く、「過去15年間、工業製品の価格は低下したが、サービス価格はほとんど低下しなかった」旨と、そのデータが掲載されています。

そして、「2009年に物価下落を引き起こした主要な原因は、原油価格の低下」で「歓迎すべきことだ」。
物価下落のもう一つの原因は「パソコンや薄型テレビの大幅な価格下落」で、これは海外要因である「新興国メーカーとの競争によって生じて」おり「消費者にとっては歓迎すべきことだ」とあります。

また、「こうした価格面の動きに、需要面の変動は影響を与えていない」。つまり、消費者が物を買わなくなったから価格が下がったわけではないことと、2007年の経済危機で需要が減ったときには、価格は下がらず、かえって08年には原油価格の上昇で価格は上がっていることが書かれています。

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そして、金融緩和に関しては、日本は15年間にわたって緩和政策を行なっているが、「流動性トラップ」に陥っているため効果は出ていない。つまり、金融緩和は、金利を下げることによって民間投資や消費の増加を促すことが目的だが、利子率を下げ続けるうちに、その効力が失われてしまっていることが書かれています。すなわち「諸悪の根源はデフレではなく、流動性トラップ(金利が低すぎること)なのである」。

さらに、「現在の日本では、将来の所得の行方が定かでないので」「定額給付金や子ども手当のような」形で「可処分所得が増えても、貯蓄が増えるだけで支出には回らない」。けれども「自動車や家電製品に対する購入支援策」は、大きな効果を発揮したと書かれています。

結局、「デフレスパイラル論は、従来のビジネスモデルから脱却できない責任を転嫁するための、言い訳にすぎない」。現状から脱却するためには、「企業がビジネスモデルを転換し、新興国とは直接に競合しない分野に進出することが必要である」ということです。

メーカーは「利益が上がらない工業製品をつくることをやめて、サービスを売るビジネスモデルに転換すべきである。IBMが行なったのは、まさにそのことだ。ノートパソコンの生産を中国のメーカー、レノボに売却し、自らはソフトウェア中心にビジネスモデルを変革した」。
「あるいは、(アップルが行なっているように)製品の企画段階に集中して、実際の生産は新興国の低賃金労働を活用して行なうべきである」といいます。

第1章、第2章をまとめると、物価が下がっているのは主に工業製品で、新興国メーカーとの競合によって生じている。だから、そういう分野で低価格競争をするのはやめて、サービスや企画で勝負するビジネスモデルに変えていかなければならない。金融緩和策は、もはや金利を下げ過ぎて効力を失っている、ということです。

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価格下落が一様ではないことに関して、本書には、総務省統計局のデータが掲載されていますが、私も自分できちんと最新データを確認してみることにしました。

下記は、2005年の消費者物価指数を100としたときの、2010年までのデータ(出所:総務省統計局)です。2010年は、全国は11月までの平均、東京都区部は12月までの速報値です。
これで見ると、野口先生がおっしゃるとおり「工業製品」が下がっていることがわかります。とくに「東京都区部」で下がっています。「農水畜産物」、すなわち食料はむしろ上がっています。

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次に、工業製品の内訳です。
「石油製品」は値上がりした後、値下がりし、また値上がりしています。
「食料工業製品」はむしろ上がり、「他の工業製品」が大幅に下がっています。

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さらに、物を別の分類で見たのが下記です。
「耐久消費財」とは、比較的長期間(1年以上)使う、比較的高いもので「家具、自動車、テレビ、パソコン」など。
「非耐久消費財」は、「食料、消耗品(石鹸、シャンプー他)、消耗性文房具、新聞・雑誌」などの耐久性のない、比較的安いもの。
それらの間が「半耐久消費財」で「服、バッグ、布団、テレビゲーム、ゲームソフト」などが分類されています(分類の詳細は、総務省統計局の「収支項目分類表」PDFの55~56ページを)。

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野口先生の指摘どおり、テレビやパソコンなどの「耐久消費財」が下がっています。とくに「東京都区部」は顕著です。

じつは、新宿から長崎に来て、物は新宿のほうが安いなあと感じました。人口が多いので価格を下げてもスケールメリットがあるのと、競合が多いからなのでしょう。

さて、デフレ報道で、マスコミが取り上げるのは、ユニクロ、ニトリに加えて、外食店が多いようです。サイゼリヤ、松屋、すき家、日高屋、マクドナルド、渋谷のランチ戦争などなど。そのため、サービス部門でも、外食はさぞ価格が下がっているだろうと思いますが、データを見ると、じつは上がっています。
そして、「民営家賃」も下がっているイメージがあるほどまで下がっていません。

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以上、価格下落は一様ではなく、工業製品、なかでも耐久消費財が下がっているのが確認できました。

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