長崎大学 寺島実郎リレー講座を振り返る

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このリレー講座は、最初に書いたように、ラッピング路面電車を見て、たまたま知ったのですが、その後、関係者ともお会いし、わずかですがお手伝いもすることになり、全講座に参加させていただきました。
リレー講座全体について、まとめてみたいと思います。

まず、このリレー講座は、混迷する時代、閉塞感と不安が溢れる日本、そして、長崎において、世界の今を知り、日本の進路を考えようということで、長崎大学が企画・開催したものです。
大学を「知の拠点」として社会にオープンにし、長崎から新しい価値観を世界に発信する礎にしようという試みの第一弾でした。

長崎という場所は、1回目、そして6回目の寺島実郎氏のお話にも出てきた「長崎学」という言葉でも表わされるような、特殊な歴史をもった地です。
それは、江戸時代、日本が鎖国をしていたときに「出島」を通じ、2百数十年間、唯一欧米と交流し、その後も、横浜・箱館(函館)とともに露英仏蘭米との貿易を行なっていたという歴史です。
トーマス・グラバーが来訪し、上野彦馬が写真館を開き、坂本龍馬が亀山社中をつくるなど、新しいことに挑戦したい人を引き付ける魅力をもったまちでもありました。

しかし、その歴史は、現在に生きているのかというと......
生きている部分もありますが、現在も「情報の最先端」「知の最先端」にあるか、新しい時代を切り開いていこうという「志」や「情熱」に満ち溢れているかというと、そういった熱気が、少なくとも誰もがわかるような強さでは伝わってきません。
もっとも、新しい時代を切り開こうという「志」や「情熱」は、長崎のみならず日本においても、弱まっているのかもしれませんが。

しかし、そういったなか、世界、日本、長崎のことを皆で考えてみようというが、このリレー講座でした。

          ◆ ◆ ◆

世界の現状ということでいえば、
「リーマンショック以降、世界が変わった。西洋と東洋が逆転した」(財部誠一氏)
アジア太平洋はこれから21世紀を迎えて、世界の重要な潮流になる」(坂本和一氏)
「中国は急ピッチに台頭している。一時的な挫折はあっても、2020年まで経済成長は続く」(沈才彬氏)
という構造転換が起きている。

それに対して
「戦後、日本はアメリカを通じてしか世界を見て来なかったが、今、日本は自立し、そのうえで、アメリカとの関係を踏み固めながら、アジア、ユーラシアとの関係を構築したほうがよい」(寺島実郎氏)
「もっと日本の中に世界をつくる必要がある。若者は世界を目指せ」(坂本和一氏)
「現実的に物事に対処していくという姿勢が大事」(財部誠一氏)
などの提言がなされました。

また、ITは、
「インターネットは『人と人』とのコミュニケーションから、いよいよ『人と物』『物と物』とのコミュニケーションという形で展開する」(村上憲郎氏)
と進化を続けていると同時に、
「(リーマンショックでは)恐るべき特徴があった。それは規模だ。バブルが、アメリカ、ヨーロッパで一度に崩壊したことはなかった」(財部誠一氏)
アフガニスタンに関しても「核がテロリストに渡ったら、日本もターゲットになるかもしれない。当事者として考えなければいけない」(伊勢崎賢治氏)
というように、世界はどんどん狭まり、相互に関わるようになっています。

同時に、
「21世紀は『生命と水』の時代。大事な分野は『食べ物(農業・水産業)』『健康(医療)』『住居(林業)』『心・知(教育)』『環境、とくに水』」(中村桂子氏)
「グーグルも、オバマ政権のグリーンニューディールにコミットしている」(村上憲郎氏)
「最大の課題は、地球環境の保全。2番目は、覇権争いのない地球社会の構築」(坂本和一氏)
と、地球全体の課題も山積しています。

また、日本は「人口がこれからつるべ落としで減っていく。移動人口を増やして活力を高めるべき」という状況にあり、加えて、日本の課題として「束ねてプロジェクト化して、問題を解決していくガバナンスが必要」(寺島実郎氏)という指摘もなされました。

          ◆ ◆ ◆

それでは、いったい、長崎はどうしていけばよいのか?
それに関しては、フォーラムで、次のような意見が出されました。
海外に通用する人材を育てる」
「外向きの人材を育成する」
「西洋の発想を超えた、融合した発想を取り入れる」 

そのためには、
「早くから海外の現場に出し、体験させる」
「子どもの頃から交流させ、主人公にする」
「幅広い教養、歴史的な認識、使命感をもって学べるという環境・場を提供する」
「日中韓での大学の連携を行なう」
「産学官共同で進める」
などの方法が考えられ、既に取り組みが進められているとのことでした。

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どういう未来をつくるかは、まさに、どういうふうに人を育てるか、どういう教育を施すかにかかっていると思います。

しかし、人を育てていくというのは、時間のかかる、気の長い話であり、簡単ではありません。
まさに「生きものは、子ども(を育てること)でも、早くできない、手も抜けない、手をかけても思いどおりにはできない。それをきちんと踏まえてやらなければならない」(中村桂子氏)はずですが、「便利」「即効性」を追求してきた現代人にとって、それは試練かもしれません。

          ◆ ◆ ◆

知り合いの出版関係者が言っていました。成功している人です。
「今、売れている本は、楽して幸せになる本です。何も努力せず、それを知るだけで、5秒で、愛や健康、成功、お金が手に入る本です。
楽してモテたり、素敵な恋愛ができる本。楽してダイエットに成功したり、健康になる本。楽して成績が上がり、結果が出る本。楽して人間関係がうまくいき、家庭が円満になる本。楽してお金が入る本なんです。

努力や苦労は自分がするのではなく、そういう人をテレビで見て、満足するのです。
そして、じつは、出版社も、テレビ局も、企業も、楽をして成果を得たいのです。売れたものの第2弾、第3弾をやる。類似のことをやる。一からやるのは、時間もお金もかかるし、手をかけてもうまくいくかどうかはわからないから嫌なのです」

今、私たち大人は「日本の学生は勉強していなくて、役に立たない」「簡単に辞める。与えられた環境にしっかりと適応していく知恵や見識がない」(財部誠一氏)と言いますが、そういうふうに育てた責任は、「楽して、成果を得よう」と「便利」を追求してきた大人にあるのかもしれません。

子どもは大人の鏡、世の中の鏡ですから。
かつて大人が子どもだったときには地道な努力を積み重ねてきたかもしれませんが、今、手軽さを追求する姿しか見せていなければ、子どもにはその姿がすべてなのです。

そして、鏡であるから、大人が将来に希望をもてなければ、子どもも将来に希望はもてません。
大人が将来をただ不安に感じ、ひたすら自らの安定の維持を考えるだけで、挑戦、創造に向かわなければ、子どもも、不安に怯えるだけで、思い切った挑戦や創造はできません。

すなわち、大人が自らの力を信じて、時代を切り開こうとし、未来に希望をもたなければ、未来を担う人は育たないでしょう。
ある意味、教育者は、安定志向ではなく挑戦志向の人、自らの使命のために強い意志と行動力をもった社会起業家のような人が向いているのではないかとも思います。

いずれにしても、皆で「知」を共有し、事に当たることが大切だと投げかけられた、このリレー講座に多くの人が参加したことは、希望の第一歩だと感じます。


■「長崎大学 寺島実郎リレー講座」のブログ
・第1回「2010年、世界の構造転換と日本の立ち位置」寺島実郎氏(日本総合研究所理事長 三井物産戦略研究所会長 多摩大学学長)
・第2回 第1部「上海万博後の中国経済の行方」沈才彬氏(多摩大学教授)
・第2回 第2部「いまなぜ『アジア太平洋(Asia Pacific)』か」坂本和一氏(立命館アジア太平洋大学初代学長)
・第3回「対テロ戦とアフガニスタンの安定化、日本はどう向き合うべきか?」伊勢崎賢治氏(東京外国語大学教授)
・伊勢崎賢治氏の「アフガン戦争を終わらせる」ための本
・第4回「生命から見直す現代社会 -日本文化を活かす-」中村桂子氏(JT生命誌研究館 館長)
・第5回 第1部「日本ICT産業への苦言」村上憲郎氏(グーグル株式会社 名誉会長)
・第5回 第2部「東洋と西洋の逆転」財部誠一氏(経済ジャーナリスト)
・第6回 第1部「日本創生への視座」寺島実郎氏(日本総合研究所理事長 三井物産戦略研究所会長 多摩大学学長)
・第6回 第2部 フォーラム「新しいアジア太平洋時代における長崎の『知』とは」

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