長崎大学 寺島実郎リレー講座 第6回第2部 フォーラム

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長崎大学主催の寺島実郎責任監修リレー講座 第6回(最終回)第2部の内容です(中見出しは私がつけたものです)。

<セミナーデータ>
タイトル:寺島実郎責任監修リレー講座「世界の構造転換と日本の進路」
 第6回第2部 フォーラム「新しいアジア太平洋時代における長崎の『知』とは」
日時:2010年12月16日 (木) 15:30~17:00
場所:長崎大学
主催:長崎大学 共催:長崎新聞社
URL:http://www.nagasaki-u.ac.jp/relay-seminar/relay-seminar.html

フォーラム

ショートプレゼン
中村法道氏 長崎県知事(欠席)
田上富久氏 長崎市長

パルディスカッション
<パネリスト>
寺島実郎氏 日本総合研究所理事長
中村法道氏 長崎県知事(欠席)
田上富久氏 長崎市長
須齋正幸氏 長崎大学理事(総務・情報担当)
青木克己氏 長崎大学大学院国際健康開発研究科長
山下俊一氏 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科長
<モデレーター>
片峰 茂氏 長崎大学長

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急遽欠席となった中村法道長崎県知事よりコメント:
昨日、菅総理が、諫早湾干拓事業の5年間の排水門常時開放を命じた福岡高裁判決について上告を断念することを表明されたことから、地元としての対応を関係者の皆様と協議する必要が生じたため、本フォーラムへの出席はどうしてもかなわないことになった。
長崎県が進めるアジア国際戦略については機会あるごとにご支援、ご協力を賜りたい。

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片峰学長
今世界がどのように動いているのか、そのなかで日本の進路はいかにあるべきか、ということを多くの方に語っていただいた。さらに寺島先生からまとめをいただいた。
たくさんのキーワードが出てきたが、今の世界の動きの中心はこのアジアにある「アジアダイナミズム」というなかで、それをいかに日本が受けとめ、いかに進路を定めるかということが最大のポイントではないかと感じた。
全体知を共有したところで、それでは、この長崎は何ができるのか、何をなすべきか、そして長崎大学という地域のアカデミアは何ができるのか、何をなすべきか、そこに焦点を絞って、シンポジウムを行ないたい。

<ショートプレゼン>
田上市長
予定では、中村知事がアジアに向けた戦略についてお話をされるということだったので、それを受けて、内側で何をするのかという話をしたいと思っていた。
アジア国際戦略に関しては、県、九州と一体となって取り組んでいくため、私は「まちづくり」の視点から話をさせていただきたい。

先ほど寺島先生から、非常に大きな変化が起きているという話があった。人口が100年で3倍に増えて、100年で3分の1になる。これまで培ってきた社会の仕組みが年金にしろ医療保険にしろ使えなくなって、新しい仕組みづくりをしていくのもなかなかスムーズにいかない。そんななかにあり、私たちも市というところにいて、大きな変化を日々感じている。

これまで国に依存してきた地方自治体のあり方から、自立する方向に向かっている。いろんなものが、画一化の時代から多様化に向かっている。コミュニティが崩壊してきた、網の目を切ってきた流れから、もう一度、網の目を作り直そうという流れがある。
これらの流れは混在している。依存と自立が混在している。多様化とともに画一化も進んでいる。コミュニティもつながりを切る方向へも進んでいる。両方の流れが進んでいる時代だと実感している。
このなかで、つながりを作っていきましょうという方向を目指す、呼びかけるというのも市町村の区議長の大きな役割だと思っている。自立方向に行きましょうというのも大事な役割。混迷の時代のなかで、どちらの方向に行くのか、皆さんに示していくことは非常に大事な役割ではないかと思っている。

変化の時代に大事なことのひとつは、原点に帰ることだと思っている。こういう時代に自分たちの「まち」が何をもっているのか、アイデンティティも含めて、しっかり確認をすることがひとつ、もうひとつはその生かし方を時代に合わせて変えるということが大事ではないかと感じている。

その一例として「長崎さるく」というまち歩きの仕組み、まちにどういう魅力があるのか、歴史、文化を時代に合わせて生かす仕組みが生まれた。
これは目に見えない財産を見える化する仕組みだと思う。ガイドさんが話をすることで、そこに、見えなかった歴史、生きていた人のことが共有できる仕組みとして「さるく」は今も生きている。さるくは、観光より、住民が自分たちのまちを見直したのが大きな成果だと思っている。まちづくりのエネルギーを生む効果があった。

歴史や文化のように目に見えない財産はお金で買えない。簡単にできない。そういった一朝一夕に作れない、お金で買えない財産を探して、生かし方を作っていくという一例が「長崎さるく」だと思っている。
原点に帰って、財産を探しては生かし方を考えるということを繰り返している真っ只中にある。そういうものがひとつずつ揃うたびに、長崎というまちのオリジナリティが強くなっていく、ローカルの力を引っ張り出すことでグローバルにも通用する、世界の人たちにも価値を認めてもらうまちになっていくのではないかと考えている。

ローカルの価値は長崎にはまだまだ数えきれないくらいある。
たとえば「造船」。たくさんの人間の技が集積して船はできている。現代の名工が次々に生まれているまちでもある。技をどうやって継承し活用していくのかが、長崎にとって大事なテーマになっている。

それから「長崎かんぼこ」、長崎名物のかまぼこだが、これも売り出しを始めている。素材がよいだけではなく、隠れた力として石うすを使って擦るという作り方をしている。金属に比べて熱が上がりすぎないので、おいしいかまぼこができるという技も含まれている。この質の高さをブランド化して広めたい。チャレンジ中の素材のひとつだ。
今「シュガーロード」といって、長崎に伝わった砂糖文化も売り出しているが、そういった試みも含めて長崎の食の魅力を大きな資源として活用していかなければと思っている。

「長崎くんち」でも、川船という出し物を見ていて思うのは、皆が一番注目する魚を獲るという瞬間を小学校低学年の子どもに任せている、長崎のまちの面白さ。平和記念式典も、長崎は子どもがたくさん登場する。司会も高校生が行なう。
長崎は子どもたちを主人公にすることを知恵としてもち、次の世代の担い手を育ててきたという文化をもっている。こういうことも、見えないことだが、まちが活力を持ち続けてきた、昔からの大事な知恵だと思っている。

「宗教者懇話会」では、仏教、神道、キリスト教の皆さんが8月8日の夜に一緒に祈りを捧げるが、こういう活動、日常的にいろんな宗教の人が集まって話をすることは珍しいことだと言われる。これはまさに長い歴史がもたらしたもので、和風、洋風、中華が混じった「和華蘭文化」のまち、宗教の確執も経てきたまちだからこそたどりついた文化だと思っている。

こういう大事な資源を生かし、子どもたちに国際社会で生きられるような力をつけてあげたい。長崎の中には、さまざまな素材がある。それを磨いていくのが、まちづくりに関わっているものの責任のひとつだと思っている。

そして、「総合力の時代」ということで、それらを生かすために「長崎サミット」という活動も始まっている。財界と県庁、市役所、長崎大学も一緒になって取り組みを始めている。こういった、行政、企業、地域、産学官の取り組みがどれだけできるかが、これから、より大きく地域の力を分けてくると思っている。
私たちの知恵が試されている。これからも力を合わせて取り組んでいきたい。

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<パネルディスカッション>
片峰学長
先ほどの寺島先生の講演のなかで「移動人口」が大きなキーワードとなっていた。まちの活性化、日本という国の活性化を図るために、人を呼び込むという戦略の中で、今、田上市長が話された、長崎という土地の歴史と文化に基づいたまちづくりという観点で、寺島先生に意見を聞きたい。

寺島氏
「グローカル」という言葉があり、「グローバリズム」と「ローカリティ」をどういうふうにリンクさせるかという視点だが、じつは相反する概念ではなくて、ローカルを深めれば世界につながる、世界を深めればローカルに至るという視点が重要だ。

長崎は歴史的なアセット(資産)をもっている。それがどういう文脈で世界史とつながっているのか、若い人たちにもっと徹底的に理解せしめるような物語が定着しなければいけない。
前回お話ししたウラジオストック-長崎、上海-長崎という海底ケーブルで、欧州情勢が7、8時間で長崎に伝わる、情報通信の先頭にあったということ、日本の近代史を開いたロシアの接近は、ペリーの浦賀来航より半世紀も前に長崎だったいうこと。そういった「長崎学」が自分たちにとってどういう意味があるのかだけでなく、世界史とどう関係しているのかというダイナミズムが見える必要がある。
同時に現在の長崎の人の経済活動、産業活動が、世界の経済とどう関係があるのかということが理解できて、スパークした瞬間に、若者は何をするべきかということをひらめく。

このあたりの輪郭を徹底して認識させるのが、アカデミズム、メディアの役割ではないかと僕は思う。その理解のもとに、市や県が仕掛けていく活性化のシナリオがより生きてくると思う。

片峰学長
長崎において、長崎大学というアカデミアの果たす役割は大きい。そういったなかで、長崎大学は「キャンパスアジア構想」の取り組みも開始している。須齋先生にコメントいただきたい。

須齋理事
「キャンパスアジア構想」は、長崎の大学の中に魅力ある教育を確立して、アジアの大学から学生たちが自由に来て単位を取る、かつ本学の学生もアジアに出て行く構想。勉学のみならず、そこでの経験が、個人の将来に向けて資質を高める機会になるようにしたいと、その努力を始めている。

また、「留学生30万人構想」という話が寺島先生からあったが、これに合わせて、本学の工学部が、環境、水に対して、日中韓で、将来アジアに貢献できる人材を教育するということを本年よりスタートした。
留学した学生の就職に関しても、産官共同して、日本の企業に就職し、アジアで活躍できるスキームをつくることを始めたので、アジアダイナミズムの中で、日本がこれから進んでいく道の先頭を行っているのではないかと思っている。

寺島氏
「キャンパスアジア構想」に関して、一番論点になったのが語学だ。英語ということになると、英語で完璧に講座を行なえる大学はそうはない。それに対して、それぞれの国の母国語を生かす、1年間は徹底的にその母国語を身につけさせる。今は町中の語学学校に通っているのを、国が施すシステム設計をすることを考えている。
世界で、オーストラリアは留学生に対してもっとも成功している国。1年目は徹底的に英語教育を行ない、2年目は半分英語、半分専門課程。3年目に3年生に編入させる。インドや中国から留学生が50万人ぐらい行き、その人たちは、その後、アメリカの大学院に留学している。

「キャンパスアジア構想」では、日本からの大学生は、指定校からではなく、どこの大学からも手を挙げた人が、アジアの大学に行って単位をとれるようにするのがいいのではないかと思っている。
とにかく日中韓で大学の連携というのが、信頼関係を構築する第一歩だと思っている。

---地球・世界にどう貢献できるか---

片峰学長
これまでは受け入れるという話だったが、日本、長崎、長崎大学が、大きな課題を抱えている地球、世界にどう貢献できるかということを論じたい。
そういった教育、研究ということで、長崎大学は2つの大きなプロジェクトをもっている。「放射線医療科学」「熱帯医学・感染症」という研究・教育分野で、これらは長い歴史の中で培われた伝統的な領域だ。山下先生から「放射線医療科学」に関して語っていただきたい。

山下研究科長
私の主たる仕事は、原爆被爆者の診断や治療だ。同時に、20年来、核に汚染された旧ソ連邦で仕事をしている。
長崎の立ち位置ということから言えば、負の遺産を背負った大学だといえる。
まず田上市長に、土山秀夫先生(元長崎大学長で被爆者)が、6人目の名誉市民に表彰されたことを感謝したい。

長崎は、核の問題で世界に情報を発信してきた。長崎大学医学部では、学生の募集に「国際枠」という国際を志向する枠をつくっており、世界を目指した学生が入ってくる。同時に地域を目指した「地域枠」がある。長崎には離島も多くある。地域を目指すことと、世界を目指すことはまったく同じ視点だ。

世界で仕事をすると見えてくるのは、自分の視座を固定していては何もできないということ。言葉のハンディキャップ以上に、自分の視座を相対化できるかどうか、融合的に物事を見れるかどうかが問われる。そういう視点で我々は医師を養成している。

長崎ならではの視点は、まさに地域を見据えると同時に、世界を見据えること。世界に出ると、広島、長崎を知らない人はいない。イコール、平和のシンボルだ。それを具現化することが、まさに医療協力である。国際医療教育という視点から、グローバリゼーションを、旧ソ連邦から順次アジアに向かって進めている。

そのターゲットは中国だ。13億人の人口があり、経済で席巻しそうに見えるが、正しい情報が入って来ない。とくに、核汚染の問題。旧ソ連邦以上に秘密主義で、情報を操作している。
私たちはそういうなかで、医学はすなわち命を守るという視点から、国家の安全保障を超えて、個人の、人間の安全保障という感覚で、今、長崎大学は世界に展開しているということを紹介したい。

寺島氏
私は、ウクライナに行って、チェルノブイリを視界に入れ始めたときに、長崎大学の放射線医療科学の人たちが根っこのところでいかに強い役割を果たしているのか、思い知らされた。
「熱帯感染症」と並んで、長崎大学が日本のアカデミニズムで放っている光がここにある。これは、広島、長崎という問題を背負った宿命でもあるのかもしれないが、放射線医療でこの大学が持っているポテンシャルが、イランや北朝鮮の核の問題、世界の原子力の平和利用に対するスタンスなどと絡んで注目されている。

我々がもっている数少ないアセットのひとつが、長崎大学がもっている放射線医療であり、先生たちが世界中を駆け巡り、核汚染に立ち向かっていることを、もっと認識してもよいと思う。

片峰学長
放射線の安全管理、原発の平和利用も含めて、どう貢献していくのかという点と、そういったものを通して、どういう人材を世界に発信していくかということに関して、もう少し山下先生に話を聞きたい。

山下研究科長
2005、2006年、WHOの仕事をさせていただいたが、結論から言うと、国連機関は期待するところではなく、積極的に活用するところであるというのが一番の印象だ。
日本人があまりにも少ない。ODAの2割を国連に拠出している日本だが、国連職員は1%にも満たない。日本は世界のリーディング的な役割を果たしていないと同時に、アジアの代表でもない
私は医療・福祉面から仕事をしてきたが、そういう外向きの人材を育成してこなかったというのは大学の責任であると考えている。

もうひとつ大事な点は、どういう立ち位置で人材を派遣できるか。
長崎というブランド力もさることながら、学生の幅広い教養、歴史的な認識、使命感をもって学べるという環境・場を我々が提供したい。新しい教養学部構想というのは、まさに教養学というのをどうするかだが、知識や強い意欲がない限り世界に出る資格もないし、花も開かない。

---核の問題と日本の技術力---

片峰学長
田上市長がもっとも心血を注いでおられる課題のひとつは、核兵器廃絶であり、平和であると思うが、そういう観点からひと言いただきたい。

田上市長
広島、長崎の使命は確実にあると外に出るたびに思うが、逆にいうと、長崎、広島は、メッセージ力、発信力をもっているということでもある。

長崎大学で、その研究所をつくる準備が始められているが、この研究機能が長崎は弱かった。メッセージは一生懸命出してきたが、実際に核兵器のない世界を実現していく道筋に対する研究機能は弱かった。その機能を一番果たして来られたのが、名誉市民になられた土山先生だと思うが、それを機能として持続可能な形で作っていこうということで、今、研究所の設置について、検討していただいている。
これは本当に大きなことで、このことで、長崎大学も世界に新しいメッセージ力をもつことになっていくのではないかと思っている。

それと、平和に対する伝え方も、長崎の伝え方は市民、NGOがチームになって、非常にまとまりのある行動をしているのが特徴。これから、長崎大学とも一緒になって発信していくという、新しい展望が開けていける気がしている。

片峰学長
この件に関しては、寺島先生にお聞きしたいことが2つある。
ひとつは、オバマのプラハ演説以降、核兵器廃絶に関して世界が決議を出しているが、実際にはいろいろな対立がある。この見通しに関して。
もうひとつは、エネルギー問題で、原子力発電に関して、将来的にどういう位置を占めるのかという見通しだ。

寺島氏
核なき世界に対する構想は、空ろな夢物語のように捉えられがちだが、オバマはオバマなりに真剣だ。イランの核を制御する場合、アメリカにおける最大の課題は、ダブルスタンダード、イスラエルの核は容認しておきながら、イランの核はやめろというのは筋が通らないということが、つねに指摘されてきていた。これを、中東の非核化、NPTの普遍化、つまりイスラエルを例外にしないということで一歩踏み込んだ。今までのアメリカとはちょっと違う。うまくいくかどうかはわからないが、挑戦しようとしている。

そういう大きな動きに関して、日本も大きな構想をもち、たとえば北東アジアの非核化に本気で立ち向かおうとしているのかどうか。日本のメッセージとして言い続けることが非常に重要で、それが、北朝鮮の核を使えないようにしていくことだと思う。

もうひとつ、原子力発電に関して。
民主党は、今までの政権以上に原子力に比重をおくという方向をとった。
僕自身は、原子力は環境に優しいとかコストが安いという理由ではない別の観点から重要だと言いたい。
それは、近隣のアジア、中国がものすごい勢いで原子力発電を増設している。韓国、台湾も原子力発電を重視している。そういったなか、原子力発電の技術、技術者の蓄積というのは、日本にとってmustだということ。
中国の原子力発電の安全性やさまざまな問題にぶち当たった時に、日本が技術者をしっかり育てていないと、世界での発言権さえなくなる。

IAEA、国際原子力機関の世界の核査察予算の3割は、現実には日本で使っている。六ヶ所村の核燃料サイクルには、IAEAの査察官が3人張り付いている。日本の原子力発電所すべてに、日本人は絶対いじっちゃいけないというところがあり、監視カメラが睨んでいる。要するに、世界は日本の核装備を疑っているのだ。

原子力の技術者をしっかり育てることが、交渉力、エネルギー戦略上大事だ。そういう次元で技術基盤をもたなければいけない、そうでないと平和利用に関しても発言力を失うというのが僕の論点だ。

山下研究科長
言われたとおりだと思う。身につまされる。世界では、技術力なくして発言力はない。日本は平和ボケの国だと言われる。原発は、日本の33%を供給しているが、これを維持する人材がいないと同時に、事故が起こった時にどう対応するかという専門家もいない。きわめて後継者不足の分野である。だからこそ、広島、長崎では、被爆医療に力を注ぎ、世界の被爆者に対峙しているという現状がある。

---西洋ができなかった医学の実現---

青木研究科長
アジアやアフリカで熱帯病対策を進めてきたが、そのときに、もやっと思っていたことの頭の整理もしてくれたのが、リレー講座のような気がする。話題は外国や経済だったが、医学に関してもサジェスチョンをいただいた。
それは何かというと、「なぜ今アジア太平洋か」。西洋と東洋の思想、パラダイムの融合から生まれる新しいパラダイム。その考え方によって、医学も進めないといけないと僕も何となく思っていた。

長年、アフリカである病気の対策を行なってきたが、アフリカで日本と同じことをやってもほとんど効かない。ワクチンや薬という、今までの西洋医学の研究戦略、西洋医学の武器はアフリカでは通用しない。たとえば、アフリカでは薬を飲まない。症状の解釈が違う。伝統的な概念のあるところに、近代医学をもっていっても効かないのだ。
しかし、多くの研究者が、新しいワクチン、薬の開発を考えている。

これこそまさに東洋と西洋のパラダイムの融合から来る新しい思想だが、たとえば、負を取り除く。川で排尿しなければ病気にならないのだが、そういう研究は誰もやらない。皆、そういうことをやるのを医学とは思っていない。皆、馬鹿にする。
しかし、現場を見れば、ワクチン、薬ではない新しい概念、たとえば、蚊が飛んできたら人間が刺されないようにおとりをつくり、そちらに集めるというようなこと、そういう新しい発想ができる
けれども、先進国の多くの学者は、現場を見ていない。どのように病気が人から人にうつるのか見ていない。しかし、日本の学者は世界に出ていって見ている。長崎大学でも10名がアフリカで頑張っている。

今まで西洋ができなかった熱帯感染症のアフリカでの研究が日本はできると思っている。
僕が大学時代に熱帯医学研究所にいらっしゃった渡辺豊輔先生がおっしゃっていたことをよく思い出す。「青木君、君はこれからアメリカに行って勉強するのだけど、帰ってきたらアフリカへ行け。今までの熱帯医学は、植民地医学である。白人の人たちの医学をやってきた。アフリカの人たちの役立つ医学をやってこなかった」
病気と闘うことにおいても、西洋の発想ではなくて、融合した発想をすれば、まさに、長崎発、日本発のことができる、それこそ長崎からの知の発信ではないかと、若い人に期待している。

寺島氏
ハイチの大地震の後も、長崎大学の熱帯感染症の先生たちが先頭を切って出て行って、大変な貢献をされていることは心に沁みている。
これからの世界は、ウィルスとの戦いに入ってくる。あらゆるウィルスが迫ってきている。SARSにしてもAIDSにしても。そういうときに、この長崎大学の果たす役割は重要だと思う。

また、技術に対する敬愛の気持ちの強さが日本の強さだ。それが失われて来たら、いよいよ危ないと思う。

柏崎刈羽原発で、直下型6.5の地震をくらったとき、IAEAの技術者がやってきて、現地調査に入り、日本の技術、地震が起こった瞬間に原子炉を止めた技術に感動した。それは、アメリカとは違う、地震大国、日本の技術者の涙ぐましい努力の結果だ。
けれども、メディアや日本の表層観察をする人たちの目線は違う。だから、技術者にとっては、はかない思いをしている国でもある。アカデミズムや知の側にいる人間が、技術に対する存在感を訴えないと、仕分け的目線ではとんでもない国になる。

山下研究科長
科学技術をきちんと理解できないことで、日本は大きなしっぺ返しを受けたということが、65年前の原子爆弾の投下である。
永井隆は、いみじくもこのことを書いている。「祖国が敗れた、灰燼に帰して何もない。これで日本国民は思い知ったであろう。いかに科学を馬鹿にしてきたか。科学者を馬鹿にしてきたつけが、この原子爆弾の被災につながった」ということを彼は言っている。そして、「人類に2度とこういう災禍を引き起こさないように、我々は科学を平和のために使い、原子力の力で日本を再生する必要がある」と、65年前の灰燼の中で書いている。

---日本における海洋・資源とは---

片峰学長
長崎大学の3つ目の重要なプロジェクトとして「海」がある。日中韓で、東シナ海の環境問題、あるいは漁業資源の問題に対しては難しい。じゃ 大学だけではなく、長崎にとっても、日本にとっても、海洋の問題は重要だ。そのことに関しても、寺島先生に伺いたい。

寺島氏
2007年4月に「海洋基本法」が成立し、内閣府に「総合海洋政策本部」ができた。また、同じころ「宇宙基本法」も成立し、内閣府に「宇宙開発戦略本部」もできた。

海洋はものすごく重要だ。海洋ポテンシャルがまさに日本の未来を開く、閉塞感を開く大きなポイントになる。日本は国土面積では世界61位だが、領海と排他的経済水域の面積では世界6位という、海洋大国だ。

自分たちは資源小国だと思い込んでいるが、最近、海洋開発関係の先生方があげてきた資料を見ると、日本は、海洋に踏み込むと資源大国になり得る、大変なポテンシャルをもっているということがわかる。本気でこの分野の人材を育て、技術を育てれば、10年後、20年後には海洋資源大国になることは決して夢ではない。

それだけの方向感と構想力にガバナンス(統治、意思決定)があるかというところに日本の問題がある。日本は、個別の技術基盤はいいものがあるが、プロジェクトエンジニアリング、個別の要素を組み合わせて物事を解決していくことが欠けている。

たとえると、美しい生け花の花は全部ある。
技術力、人材の質の高さ、資金力はある。資金力はないと思うかもしれないが、じつはある。日本においといても増えないので、海外においている。海外にもっている資産のランクでは日本はトップだ。資金は、日本の国内の技術や未来に向かって投資されていない。
何がないかというと、束ねてプロジェクト化して、問題を解決していくガバナンスに欠けている。 生け花の美しい花は全部もっているのに、剣山がないから花が立たない。

アメリカの見事さ、恐ろしさは、何はなくとも剣山だけあるところだ。シリコンバレーに行くとわかる。世界中から人材を引き付け、金を引き付け、技術も引き付け、自分たちの剣山の上に、花を立てる。見事なプロジェクトにしてみせている。

日本はすべてをもっているのに、全部抜けていっている。その極端なコントラストがアメリカだと言ってもいい。そろそろ正気に返ろうと私は言い続けているが、ガバナンスをしっかりもって、立ち向かったなら、海洋というひとつのキーワードさえ、日本は大きく開いていく。食糧しかり。

「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」が来ると農業者が大変だということになっている。
しかし、日本の不幸は知恵足らずだ。
TPPは、産業対農業の構図となり、1年後ろにずらしましょうと逃げている。だけど、隣の韓国は、農業をあきらめたわけではない。韓国は、現代、サムスン、LGのトップを呼んで、「お前たちは自分たちの蓄積した技術と資金力で農業を支えろ」ということを指示している。だから、各メーカー企業が農業に入り込んでいる。この間、サムスンの会長が訪ねてきたが、「今日はITのことで来たのではない。BIOで来た」という。食糧をBIO技術で支えるプロジェクトに注目していて、それに役立つプロジェクトを日本で紹介してほしいという。

だから、産業対農業の戦いと報道しているメディアのレベルの低さが問題だ。
日本でこれからやるべきことははっきりしている。産業で蓄積してきた技術と資金力をもって、食を支える、食を生かす、戦える力を持たせるというところに方向感をとらずに、どうしましょうかとため息をついているのは、知恵足らずだ。
二律背反に見えるものを、問題解決する知恵がないといけない。

---若者をいかに育てるか---

片峰学長
大学の最大の使命は、人材の育成にあると思っている。
最近、中国、韓国、さまざまな国に行ったが、中国、韓国の若者、大学生は目が輝いている、非常にアグレッシブ。それに比較して、日本の若者、大学生はまだまだ奥ゆかしい。
閉塞感がある日本の将来を担い、切り開いていく若者をいかに育てるかが、最大のポイントだと思う。そこで、最後にお一人ずつ、お言葉をいただきたい。

山下研究科長
九州は昔から「防人」、すなわち国を守るということで、中国、韓国に対峙してきた守りの砦である。まさに、長崎が見据えるべき方向は、東京、東ではなく西で、西に出るような人材をどうやって育成できるかだと思う。
そのための取り組みとして、早い時期に海外の経験をさせる、現場を見せる、ということを行なっている。
医療がもしTPPと同じように関税が外れると、アメリカの保険会社が入ってくる、自由診療でも入ってくる、大きな変革が来ることが予想される。そういうことに対応できる医療制度の改革と医師の養成を目指している。

須齋理事
本学全体の特徴として、現場を体験させる、見せることは、比較的、理科系では多かったが、人文・社会科学でも、現場に学生たちを出すことで、彼らの行動が変わってきている。

経済でも、日中韓で活躍できるようなビジネスの人材をつくるというのは、我々は、欧米流のビジネススクールでやっている経済学やビジネスの基本的な考え方が、本当にアジアでいいのかという疑問をもっているからだ。

アジアには欧米とは違う歴史や文化、宗教がある。そこを一緒に考える。今回、中国、台湾、韓国の先生方と深い信頼関係がつくれたことを基盤に、学生たちが一緒に参加をする。先週、世界から50人以上の研究者が集まった国際会議をやったが、そういうところに学生が出ることで、自信をもって先に進むということをやっている。
現場に出て体験することで、自ら進んで育っていくような学生を育てたいと考えている。

青木研究科長
研究科を卒業した彼らのミッションは、開発途上国に行って保健医療に従事する人材の育成だ。まさに国際人の養成である。そういう人たちが頑張って、長崎大学の国際化を図ってくれればいいと非常に期待している。優秀な人材を全国から長崎に集めるよう宣伝もしている。

田上市長
今は、海外で働いたり、海外の人と一緒に働いたりするのが普通になってきている。海外との精神的な、気持ちの垣根がなくなっていくというのが大事なことであり、子どもの頃にその経験をするチャンスは、長崎の場合、たくさんあると思う。
長崎は、たくさんの人がやってきて、動いていくことで栄えてきた交流のまちなので、そういった子どもたちの教育も大学と連動する形でできるのではないかと思う。小中の9年間でそういうプログラムを用意することもできるかもしれない。

学生のコミュニケーション能力を高めるということでも、長崎大学がやっている「やってみゅーでスク」がある。登録している学生に、地域などから何か手伝ってほしい、イベントに参加してほしいという希望が届く仕組みだ。こういう仕組みが長崎全体に広がっていくといいと思う。

長崎に来るとコミュニケーション能力が高まる、長崎で子ども時代を過ごすと外国との垣根がなくなるという、そういう街づくりを大学と一緒に進めていければと思う。

寺島氏
先ほど、片峰学長が「中国、韓国の学生の目が輝いている」とおっしゃられたが、面白い作品がある。バートランド・ラッセルという思想家が、20世紀の初頭、中国と日本をまわって書いた有名な本で、「ザ・プロブレム・オブ・チャイナ」という本だが、そのなかに「日本の青年の目は輝いているが、中国の青年の目は死んでいる」とある。今とまったく逆のことで、当時、日本の人口は4700万人だった。

今僕は世界中の元気な地域を自分の目で見て歩いているようなものだが、元気な地域には元気な地域の共通性がある。
まずひとつは、「国境を越えた地域連携」を成功させることが必要だ。シリコンバレーしかり、北ドイツのバルト海都市連合の連携などもそうだ。 2つ目が、長崎大学にも期待することだが、「アカデミズム連携」だ。若い研究者と、地場の経営者の若い層が連携している地域は元気だ。コンスタントなコミュニケーションをとってひとつのテーマに立ち向かうようなことが実現している地域は元気である。

それらを誰がやるかと言っているようなところは駄目で、力を合わせてどんどん推進しているところが、ますますパフォーマンスを上げていっているのが世界の現実だ。

片峰学長
この講座を始める契機は、大学を社会にオープンにしたい、その中で、長崎大学の教員・職員と、市民の力を借りながら、若者、学生たちを育て、世界に送り出したいということだった。
今回一番感じたのは聴衆の皆さんの熱気だ。これを契機に、ますます地域との連携を深めながら、地域の若者、大学の若者とスクラムを組んで事に当たれたらと思う。皆さん、本当にありがとうございました。
(以上)


■「長崎大学 寺島実郎リレー講座」のブログ
・第1回「2010年、世界の構造転換と日本の立ち位置」寺島実郎氏(日本総合研究所理事長 三井物産戦略研究所会長 多摩大学学長)
・第2回 第1部「上海万博後の中国経済の行方」沈才彬氏(多摩大学教授)
・第2回 第2部「いまなぜ『アジア太平洋(Asia Pacific)』か」坂本和一氏(立命館アジア太平洋大学初代学長)
・第3回「対テロ戦とアフガニスタンの安定化、日本はどう向き合うべきか?」伊勢崎賢治氏(東京外国語大学教授)
・伊勢崎賢治氏の「アフガン戦争を終わらせる」ための本
・第4回「生命から見直す現代社会 -日本文化を活かす-」中村桂子氏(JT生命誌研究館 館長)
・第5回 第1部「日本ICT産業への苦言」村上憲郎氏(グーグル株式会社 名誉会長)
・第5回 第2部「東洋と西洋の逆転」財部誠一氏(経済ジャーナリスト)
・第6回 第1部「日本創生への視座」寺島実郎氏(日本総合研究所理事長 三井物産戦略研究所会長 多摩大学学長)

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